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オピニオン

2008年8月

日本人船員(海技士)の確保・育成

日本船主協会 副会長(常勤)
飯塚 孜

 トン数標準税制導入の過程で、交通政策審議会等の場に於いて、日本海運の現状、課題が総点検された。順調な経営に見えても燃料高や為替の変動脅威に常にさらされる外航海運、燃料高を吸収できず赤字を余儀なくされている内航海運双方にとって、もう一つの大きな問題として、船員に関わる諸問題とそれに的確に対応する必要性があげられている。外航海運に於いては、絶え間ない円高の流れに対し昭和40年代後半以降日本人船員の削減が進み、現在では、日本商船隊乗組員の90数%を外国人が占め、いわばグローバル化が完璧に実現している世界である。今更日本人船員の少なさに驚いてもしかたがないが、その数2,650人とピーク時の5%弱という現実を前に、海運企業の経営上、安全・安定運航を支える技術力の確保とその伝承の観点から将来に不安を残し、ひいては国家経済安全保障の点からも看過できずとして、船員増の必要性が提言された。一方、内航海運に於いては、少子高齢化の進展と労働環境・条件が陸上に比し魅力に乏しいことなどを理由に、船員供給が細くなり、将来の事業継続に大きな不安を残すとして、中長期的な対策の必要性が強く提言されている。

 このような状況から、当協会では船員確保タスクフォースを立ち上げ、質量両面の日本人船員の維持拡大策の検討に入っている。その第一歩として、過日、現在船員教育に携わっている、大学・商船高等専門学校・海技教育機構等の船員教育機関の先生方に集って頂き、意見交換会を開催した。様々な角度から率直な意見が披露されたが、あえて要約すると、程度の差こそあれ、船員教育の場は大変厳しい状態にあり、このままでは、日本海運界に必要十分な人材を送り出すことは難しい、というものであった。海運各社が自らの生き残りを賭けて戦うさ中、人件費を含めあらゆるコストを削減せざるを得ない事情はあったとしても、若人の就職の入り口を絞ったこと、少子化の時代に親から離れ何ヶ月も洋上生活を強いられることを嫌う親子の心情、陸の世界で比較的安易に生活の場を見出せる道があることなど、海運界および日本の社会の諸事情を反映して、船員志望者の減少を招いている状況を改めて認識させられた。
 また、進路を決める前に、海に携わる船員の魅力とそこから生まれる具体的な報酬、更には将来の人生設計の青図など物心両面でのPRの不足など異口同音に指摘された。そのような指摘は格別耳新しいものではなく、先生方にとっては、言い飽きたものであるようだが、改めて真摯に受け止め誠実に対応すべき提言にあふれたものと感じた。救いの一つは、意見を述べる先生方に現状を第三者的に眺めておられる方がいなかったことである。厳しい現実を前にして、怯むことなく、教えることに情熱と喜びを感じている先生が大多数であった。トン数標準税制の成立を契機に、船員教育の現場に再び勢いをとり戻すためにも、この先生方の努力になんとか応えなくてはならないと思いながら会議を終えた。

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