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2009年12月

前川弘幸

北極海航路の可能性・将来性について

日本船主協会 副会長
川崎汽船株式会社 代表取締役社長
前川 弘幸

 私事ながら今から40数年前、大学在学中、南米チリにある人跡未踏の山を初登頂し、60日間に渡りパタゴニアの氷原を踏破した。近年、同地の氷河が徐々に後退・減少しているとの話に接すると、心が痛むとともに、気候変動の影響が地球規模で広がっていることを実感する。パタゴニアから見てほぼ地球の裏側となる北極海でも夏場の氷の融解面積が年々拡大しており、2007年には北極海における海氷面積が観測史上最小を記録し、今年も観測史上3番目の少なさであったと聞く。また、2008年にはベーリング海峡から北極海経由欧州・北米に至る北極海航路において、観測史上初めてロシア沿岸経由北欧に至るルート(北東航路)とカナダ沿岸経由北米東岸に至るルート(北西航路)の海氷が両方同時に消滅している。このような状況が進行することは人類にとっては不幸な出来事であることは疑いが無く、そのため、わが業界も英知を集めて地球温暖化防止対策を練り上げているところであるが、北極海航路はいろいろな可能性を秘めている。
 仮に北極海航路が利用可能となった場合のメリットは、北極海経由の日本から欧州への航行距離がおよそ7,000マイルと、スエズ運河経由のおよそ11,000マイルに比較し約4割短くなることにより、所要日数の大幅な短縮と燃料消費量の削減に伴う、温室効果ガス(CO2)・硫黄窒素酸化物(SOx、NOx)などの排出量減少も期待できるという点である。また、極東から欧州に向かう際、日本が極東側の最終寄港地の1つとなり得るため、日本が欧州航路のハブポートの機能を担う可能性を秘めている。さらに、北極圏での資源開発を後押しすることができよう。
 一方、商業ベースで北極海航路を安全に安定的に航行可能とするための課題は、ロシア沿岸を一番南側のルートで通過する場合、喫水制限のある海峡を使うことになるといったルート選定、保険の付保の扱いをどうするのか、航路の安全確保ための管制体制構築等であり、地道な検証・対応を通じて克服する必要がある。
 繰り返しとなるが、地球温暖化は人類にとって好ましい方向性とは言えないが、北極海航路の可能性・将来性について、業界として継続的に情報収集・研究・問題点の検証を行っておくべきではないかと感じている。
 余談ではあるが、先般、海上自衛隊の観艦式に参列する機会を得た際、横須賀基地の岸壁に旧南極観測船「しらせ」が繋留されているのを見た。リタイア後の身の振りどころが未定とのことで、かつて、先人達の冒険話に心を躍らせた身にとって、何とも複雑な思いを抱いたが、ようやく第二の人生が決まったようである。氷海での経験の積みかさねを今後の検討に生かせるならば「しらせ」の苦労も報われるであろう。

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