2010年6月
成長戦略として海運税制の拡充を
日本船主協会 理事長中本 光夫
国土交通省の成長戦略会議で、外航海運を日本の将来の発展を担う一分野と位置づけ、議論が進められていることは大変有難い。我が国外航海運会社は、鉄鋼、自動車等の産業と協力して独自のビジネスモデルを開発し、我が国の経済発展とともに成長し、世界のトップ5に3つは入ると言われるまでになった。しかし、中国、インド等の新興国が著しい経済発展を続け、世界の経済地図が大きく変る中で、今後とも世界のトップランナーでいるためには、各企業の不断の努力と外国企業との競争条件の均衡化が不可欠だ。即ち海運業界が悲願としているトン数税制の5パーセント税制から全面適用にすること、および外航オーナー企業等のための特別償却と圧縮記帳の海運税制が充実されることが成長戦略として極めて重要である。
今、国際ハブ港湾の選定の議論が熱心に行われている。15年前には北米向けのアジア発のコンテナ貨物の約2割は日本発の貨物であったが今は4パーセントに減少した。近隣諸国の産業発展、日本企業の海外展開という要因は如何ともしがたいが、日本の港が欧米との間の主要航路のメインポートとして生き残るためにより安く、より良いサービスを提供することは必須だ。日本の海運企業はメインポートとしてできるだけ日本の港に寄港するよう努力している。しかし、世界のコンテナ輸送航路では約20社の企業が激しい戦いをしており、その結果、寡占化が進んでおり、有力な外国船社3社で4割近いシェアーを占めている。一方、邦船3社のシェアーは合わせても1割に満たない。規模が大きいことだけが強みではないが、これらの船社と互角に戦っていくには競争条件の均衡化は不可欠だ。
また、邦船社の売り上げに占める三国間輸送の比率は年々増加しており、約4割に達している。新興国の発展を日本の発展に結び付けるには、あるいは日本の企業の海外展開を支援することは、とりもなおさずこの比率の増加を目指すことになる。我が国の当面の成長戦略は新興国経済の発展の取り込みである。
トン数税制は1996年にオランダが自国に海運企業を止めておくために導入し、その後競うように欧州の国々、米国、韓国等が導入した。各国とも基本的には自国海運の競争力を他国と均一にすることを目的としており、船の籍には係らず全船に一律で適用している。現在調査中ではあるが、その導入時には自国籍船の保有比率の維持等を要件とする国もあったが、その後そのような要件が厳格に運用されてはいないようだ。
我が国海運企業は造船、舶用工業、船舶金融、保険、船級、港湾等の海事クラスターとともに発展してきた。海洋立国日本にとって外航海運企業はその中核であり、極めて重要な存在だ。シンガポールのように海運企業誘致のために法人税を無税にとまでは言わないが、他の海運国に遅ればせながら国際競争条件の均衡化を図ることを躊躇する理由はないはずだ。