2010年7月
黙々徹底
日本船主協会 副会長林 忠男
私の家の寝室の壁に、40cmくらいの小さな正方形の額に収まった書が飾ってある。
黙々徹底
世の中には誰れも
やりたくないが誰れかが
やらなければならないこと
が沢山あるそうしたこと
を指図されないでも
黙ってトコトンまでやり
貫ぬく人間になりたい
林 秀一
決して上手な筆の運びではない。いや、むしろ下手な字であるだけに筆者の一生懸命な気持ちが伝わってくるような書である。書いてあることは、まったく今様ではなく、泥臭いことばである。しかし、われわれ世代には、実に説得力のあることばであり、人生の節目節目にその重さを噛み締めてきた。実は、これは、私の父親の書き残してくれたものであり、突然に倒れた父親からの遺言のようなものとして、私の宝物の一つとなっている。父親は、明治35年名古屋生まれ、名古屋育ちであったが、大学を卒業後旧制第六高等学校の漢文の教師として岡山の地に赴任し、その後、岡山大学に転じ、その一生を岡山から離れることなく、生涯を漢文教育と青少年教育に身を捧げた人物であった。若き日の父親は熱血の教官として知られ、教室で論語を教えるときも、課外で部活動(陸上競技部・水泳部)を指導するときも、情熱を以って学生に語り掛け、人に感動を与えることを生きがいとしていた。老いては、青少年教育に情熱を傾け、寸暇を惜しむことなく公私に亘り、人のお世話をしながら、78歳のとき岡山県児島市の講演会場において心筋梗塞で倒れ、そのまま亡くなってしまった。
海運業界に限らず、自分の周囲を見渡せば、「誰もやりたくないが、誰かがやらないといけない」といったような仕事は山ほどある。上に立てば立つほど、そうした、嫌になるような、結果の出にくい難しい仕事が回ってくる。黙って見過すことも可能であるが、さりげなく、嫌そうな顔をしないで引き受け、途中で投げ出さず、最後まで「トコトン」やり貫く。どうせやるのなら、楽しくやれる位の人間になりたいと、かねがね思っているが、現実は、そんなに簡単にはいかない。迷った挙句ではあっても、表向きは気持ちよく引き受けることは出来る。しかし、その難しさに途中で泣き言を言ったり、愚痴をこぼしたり、挫折しそうになったところをみんなに助けられて結論にこぎつけるなど、失敗と成功の狭間でもがいている。日本船主協会の役割は、結構そう言う仕事が多いと認識している。
反省を兼ね、日々「黙々徹底」と向き合っている。