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2011年5月

前川弘幸

風評被害と
わが国における危機対応

日本船主協会 副会長 (川崎汽船株式会社 取締役会長)
前川 弘幸
 

3月11日、東日本大震災によって尊い命を落とされた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

震災後日本船主協会も、3月14日に支援対策本部を設置し、コンテナ船による外国からの救援物資を無償にて海上輸送することを決定した。また、各会員会社も、フェリーやモジュール船、内航船によって復旧に向けた対応に尽力している。そして、海運業界の特長である「物資の長距離・大量輸送」を安定的に行うことを通じ、復興に向けた力になりたいと思う。

また、海外の友人、取引先等から暖かいお見舞いと励ましの言葉や支援が沢山寄せられていることに日本関係者としてお礼を申し述べたい。先般、私が出席したノルウェー造船所における命名式典では200名余の出席者が一分間の黙とうを捧げ、造船所組合員から日本赤十字社に義援金が寄付されるという真に感動的な場面に居合わせる機会を得たことも心に銘記しておきたい。

一方で、放射能汚染に対する風評被害が発生し、われわれの活動そのものに大きな制約要因としてのしかかりつつある。外国船社・船主による東京港、横浜港抜港については、予見できたにもかかわらず国としての対応は後手に回っていたように思われる。風評被害は国内的にも深刻な問題であるが、外航海運業が直面しているのは特に国際的な風評被害である。

日本船主協会は3月17日以降、公的なデータや政府発表に基づいて、連日のように各国船主協会の集まりであるICS (国際海運会議所)やISF(国際海運連盟)及びASF(アジア船主フォーラム)を通じて各国関係者への正確な情報提供を行うとともに、国内外のプレス関係者に対する当協会からのメッセージの発信に努めてきた。IMO(国際海事機関)においても4月1日になって「放射線による健康被害及び輸送安全性への被害はない」とするプレスリリースがなされるにいたった。しかしながら中国、米国等においては独自に放射線検査を行い、中国においては日本からの寄港船に対してバラスト水の排出規制をかけるなど、わが国に関わる海上輸送に支障がでている。

会員各社においては、海外メディアからの問い合わせに対して日本が安全であることを個別に説明しているが、日本の公的機関情報の正確性と世界に向けての発信がその前提であり、和文のみではなく英文によるタイムリーな発信を期待している。公的な機関を通じた発表文書が日本語のみでは世界を説得することは到底できない。

国土交通省においても、わが国におけるコンテナの放射線測定のスキームを確立して、大気・海水の測定を追加した検査ポイントを拡充することを決定し、諸外国に発信する体制が4月中旬の時点でようやく整った。

海上保安庁による現在の危険海域は、本稿執筆時点で福島第一原子力発電所を中心とする半径30キロメートルである。事態の推移によってこの海域も変わるかもしれないが、東京港までの距離は225キロメートルである。日本船主協会会員会社が災害復興に向けて全力で取り組むことができる環境を整えるためにも、官民あげて迅速かつ正確な情報を世界に向けて発信していくことが何よりも求められている。

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