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2011年8月

栗林宏吉

瓦礫のなかで
真のリーダーシップを待ち望む

日本船主協会 常任理事
栗林商船株式会社 代表取締役社長
栗林 宏吉

例年この時期になると日本船主協会から、雑誌「海運」への寄稿ということで原稿の依頼がある。テーマは何でもいいということで、なるべくその時々の海事関係の話題に絞って書かせて頂いているが、私の国語力、文章力では大して面白い話も書けず、「あまり皆様のお役には立てていないのでは」といつも思っている次第である。

さて、今この時期に何か文章を書くとなると、やはりどうしても3月11日のあの東日本大震災に触れないわけにはいかない。

すでにというか、もうというか。震災発生から5カ月近い時が過ぎたが、いまだに行方不明者の数は5,000人近く、現地を訪ねるたびに膨大な瓦礫がまだ残されているのを見て、どうしようもない無力感を覚えるのが本音だと言わざるを得ないのが実情である。

栗林商船の北海道定期航路のRORO船は、往路復路とも仙台に寄港するのだが、震災が起きた当日はたまたま金曜日であったため仙台寄港が無く、船舶そのものの損害は辛うじて免れた。しかし、重要な拠点である仙台港にも周知の通り大津波が襲来し、そこを拠点とする子会社を中心に、多大な被害を受けることになった。

今回の震災は東北地方の港湾や道路、鉄道に未曾有の損害を与えたため、緊急援助物資の輸送が大きな問題となったが、同時に北海道と本州間の物流が受けた被害も予想をはるかに超えたものであった。

北海道と本州の物流は、青函トンネルを使うJR貨物とトラックが乗るフェリー、貨物船のRORO船から成り立っている。しかし、あろうことか津波の被害は八戸から鹿島まで拡がり、また東北本線も甚大な被害を受けたことから、北海道の物流はその輸送能力の6割近くを失うという大打撃を受けた。貨物の輸送はまさに冷や汗ものの、綱渡りの状態が5月の連休ごろまで繰り広げられていた。

その後、関係者各位のご尽力で、代替港で再開された各航路は、現在は本来の港に戻り、またJRの鉄路も復旧したことからその輸送能力はほぼ100%に回復しつつある。

さてこのように、我々定期航路業者もJRも被災者であることには変わりはない。天災なのでどうしようもないと受け入れて、ただみんなと一緒に復旧、復興へと努力しているだけである。ところがこのような我々のやる気を殺ぐような政策が、何も決められないので有名な民主党政権であっさり決まり、6月20日から実施されている。それは東北地方の高速道路の無料開放である。

確かに復旧に必要な物資はトラックでの輸送の割合が多いのだから、高速道路の料金を免除することも必要かもしれない。しかし、復旧に関係のない地域の日常的な物流やさらにはまったく関係のない北海道の物流まで、一緒くたにして無料というのはいかがなものだろうか。

復興には、緻密な計画と大胆な発想、広く国民にその政策を納得させるだけのリーダーシップが欠かせない。政策の優先順位もなく、暴挙に近い政策を行なう内閣には早々に代わっていただき、迅速な復興策を推進できる真の政治指導者の登場を待望するものである。

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