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オピニオン

2012年3月

飯塚孜

「国船協」の取り組みについて

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
飯塚 孜

昨年7月のマイアミでのIBF中央交渉に於いて、ITFとの間で2012年からの3年間のFOC船配乗の外国人船員の賃金及びその他労働条件の大枠が決定され、それに続く全日本海員組合とのローカル交渉で細部が詰められた。日本外航海運が未曾有の厳しい不況に襲われているときに、船員の賃金を3年間で7.7%上げる決定をせざるを得なかったことは当事者として心苦しいものがあったが、日本船主協会加盟の各社に概ね受けいれていただけたと思っている。

これによって国際船員労務協会(以下国船協)の最重要任務の一つである船員の労働協約交渉は一区切りついたことになった。

次に国船協が取り組むべきは各種基金の管理とその有効利用の推進である。我々が結んでいるIBF協約には、全日本海員組合(以下全日海)との共同管理の下、船員の教育と訓練に資するための基金が規定されており、現状の拠出額では年間約1000万ドルの巨額にのぼる。この基金は先人がITF、全日海との厳しい交渉を通じて獲得してきたものであり、また日本の外航船社が苦しい中から拠出してきたものゆえ、日本海運の発展の一助となるよう最も有効に使わなければならない義務があると思っている。

現在これらの基金は主として、フィリピン、釜山、大連に船員の教育・訓練のためのシミュレーターなどの設置とその運営費用にあてられている。これらの設備、機械がその目的に沿って有効活用されるよう監視、指導していくことが基金の管理と併せ国船協のもう一つの重要任務だ。釜山、大連については有効利用を高めるのはその運用如何にかかっているが、フィリピンにおいては事情が異なる。そこには日本の大手3社のマニラにある研修所とAMOSUP傘下の海事大学MAAP(Maritime Academy of Asia & Pacific)に機能の異なるものを置いていただいているが、夫々離れた場所に設置されているため連携して使用するには難点があるうえ、設置船社への遠慮が働き気軽に使いにくい状態を生み、結果として効率の点で満足できない状態をきたしている。昨年12月の外国人船員(IBF協約登録船の乗組員)におけるフィリピン船員の比率は約75%であり、その総数(34990人)は1年前に比べ11%の増加を示しており、日本海運にとって船員供給国としての重要性は当面衰えず、従って当地でのより確かな教育、訓練も求められ続けるであろう。もとより、船員の採用、教育、訓練は各船社がその方針に基づき行うものであるが、必要な設備、機械を各社がそれぞれ手当するのは費用対効果の点で得策ではなく、外部の設備を補助的に有効に使うことで、より的確に目的をはたせるものと思われる。そう考えると、現状は構造的な問題を抱えており、抜本的な見直しが必要と思われる。まず各社のニーズを的確に把握することから始め、施設を統合した場合の場所選びや設置する設備や機械の選定、インストラクターの手配など検討する課題は多い。当然相当な費用を要するので、少々時間がかかっても、将来の日本船社の需要予測など長期的な観点から費用対効果を十分検討しなくてはならない。これが国船協の次のプロジェクトと考えているが、関係各位と緊密な協議を重ねて取り組んでいきたい。

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