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2012年8月

武藤 光一

「海洋基本計画」見直しにおける国際標準

日本船主協会 常任委員
商船三井 代表取締役社長
武藤 光一

2007年に制定された海洋基本法を受けた海洋基本計画が、5年毎の見直しの時期を迎えている。政府の総合海洋政策本部で新計画の検討が始まっているが、2017年度までの我が国の海洋に関する基本方針や施策に関する重要な計画であり、ぜひ考慮してもらいたい点を以下述べたい。

1990年代までは日本は海上輸送における大荷主国で、たとえば、鉄鉱石・石炭・穀物・LNGの輸入、自動車の輸出はすべて世界一だった。その旺盛な輸送需要に支えられて日本海運は世界一となり、今でもそのポジションを維持している。しかしながら、2000年代以降は中国、その他新興国の急成長でこの図式が大きく変わり、いまや日本海運は日本を介さない三国間を主戦場とした国際競争にさらされている。日本が貿易立国であることは変わらないが、海運の成長の源泉は完全に国外に移ってしまっているのである。

この新しい環境下、日本海運が海外の高成長を取り込んで生き残っていくためには、個々の企業努力とは別に、政策面で他の海運国と同じ競争基盤の整備が不可欠。第一義的には税制等における「国際標準」の適用だ。足元ではトン数税制が拡充される方向性が出てきており大変感謝しているが、まだ不利な状況が残る。日本籍船、日本人船員の確保と同様、その大前提として日本の海運業を確保する視点も導入して、競争条件の同一化をお願いしたい。

ここで「国際標準」が達成されて日本海運を維持・拡充できる状況となれば、我が国の安定的な海上輸送、経済安全保障は保たれ、真の「海上輸送の確保」が可能となる。昨年放射能汚染の風評被害が出た時、外国の商船隊が日本寄港を避けたことは貴重な経験だ。さらに、三国間の海上荷動き成長を日本海運が取り込んで、それを国内の海事クラスターへ還元してその発展につなげるとの好循環も期待できる。

我が国のエネルギーや資源の安定確保の観点から、今般の基本計画見直しにおいても、近海で採掘が期待されるエネルギー・鉱物資源や海底資源開発の議論が先行する傾向があるが、ここで述べた「海上輸送の確保」があってはじめて我が国の海洋政策がバランスの取れた国策となると思う。

加えて「海洋の安全の確保」に関連して、日本籍船の海賊対策で懸念がある。海賊対処法に基づく護衛艦・哨戒機の派遣では大いに感謝するところであるが、武装ガードの乗船が未だ叶わぬ日本籍船の安全対策は十分ではない。多くの国が採用している施策が制度的に取れず、「国際標準」からほど遠いと言わざるを得ない。また、イラン制裁で改めて気付かされた、日本経済の頸動脈とも言えるホルムズ海峡の安全確保の取り組みも検討する必要がある。

基本計画には「海洋に関する国民の理解の増進と人材育成」も掲げられている。貿易立国としての我が国の将来を豊かにしていくためにも、ここで述べたようなバランスのとれた海洋政策を推進し、それを政府、民間が協力して国内外にアピールし、学校教育でも反映して人材育成につなげていくことが求められていると思う。

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