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2012年9月

関根 知之

「復元力」

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
関根 知之

日本列島は、東日本では北米プレート、西日本はユーラシアプレートという異なるプレート上にあり、さらに別の太平洋プレートとフィリピン海プレートがその下に潜り込んでいる。フォッサマグナと呼ばれる大地溝帯が本州の中央を東西に分断し、中央構造線が南北に分かつ複雑な地形だ。数千万年も遡れば、そのほとんどが海底であったが、日本のいたるところに大地が海底にあった証拠、海の記憶を覗かせている。日本の温泉で、自然湧出量のもっとも多い塩化物泉のうち、化石海水と言われるものは太古の海水の名残であるし、秩父の武甲山は、赤道付近のサンゴ礁が3億年もの時間をかけて海底を移動し、日本列島にもぐりこみ、隆起して地表に現れたものだそうである。そういえば世界のヒマラヤの頂上も、5億年前海底にあった石灰岩層(チョモランマ層)だ。

石灰岩は、サンゴなどの生物が長い時間をかけて炭酸カルシウムの石に二酸化炭素を閉じ込めたものだ。地球の生成期には大気の96%が二酸化炭素であったが、ほとんど0%近くまでに減らしてくれたのもサンゴのような生物の活動のおかげだという。炭素分が石炭や石油に変わったものもあるが、水星・金星と地球の違いを決定づけたのは、サンゴやウミユリなどの生物が二酸化炭素を石にして閉じ込めてくれたおかげであった。かくして大気中の二酸化炭素濃度が激減し、地表温度が下がり、多様性のある生物の住む地球が出現した。

日本人は豊かな海から多くの恩恵を受けてきたが、時には海は別の顔をのぞかせることもある。嵐の沖では船は大波をくらう。大揺れの中、船首から大波に突っ込んでいく船の中にいると、果たしてこの船はまた水面に浮上してくれるのか、そのまま海に呑み込まれてしまうのではないか、と不安になることもある。しかし、そんな大波にもまれながらも、しばらくたつと甲板上の分厚い海水を押しのけ、このくらいでは負けないぞといわんばかりに船首を突き出してくる。船酔いも大変だが、そんな時ほど、身を任せる船を頼もしく感じることはない。

現在海運を取り巻く環境は非常に厳しい。また被災地の復興には時間がかかるだろう。しかし、復元力がある。必ず立ち上がってくるに違いない。

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