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2012年10月

栗林 宏吉

あらためて政治に望むこと

日本船主協会 常任委員
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏吉

月も替わり9月となった。厳しい残暑は残ってはいるものの、朝晩はだいぶ過ごしやすくなってきた。こうしてみると、あのオリンピックの興奮や消費税をめぐる国会の混乱、さらにさかのぼれば原発再稼働問題など、はるか昔の事のように感じられる。

本日この原稿を執筆している現在での新聞紙面の話題は、解散総選挙を見越した民主、自民両党の党首選びであろうか。「近いうちに」という言葉がいつ実行されるかもわからないうちに、国会の会期を残した中でこのような話で盛り上がるというのは理解に苦しむところである。

さてそうは言っても結局解散総選挙が行われることになるのであろう。現状のまま行けば、過半数を取る政党は現れず、比較第一党に自民党が返り咲くといわれている。どうやら民主党政権には終りが近づいているようだ。大変失礼な話かもしれないが、終り行く民主党政権を振り返りつつ、新しい政権に何を期待すれば良いか考えてみたい。

海運界、特に内航海運の立場で言えば国民的熱狂で始まった民主党政権は驚きの連続であった。今はすっかり影も形も無くなったマニフェストに、高速道路無料化がうたわれていた関係で、どの路線からどのように無料化を進めるかという話になり、無料化反対の陳情に明け暮れた。

さらに沖縄県からの特区申請という形でカボタージュの緩和が求められ、当時の国交相が沖縄の特定の地域からのみ日本船社が支配する外国船籍に沿岸特許を与えるという形で史上初めてカボタージュが緩和された。当時は鳩山政権で、普天間基地問題が「最低でも県外」という公約の中でどう動いていくのか注目されていた時期であったが、海運界の絶対的憲法ともいえるカボタージュを緩和した効果は基地問題にはまったく無く、逆に沖縄県に経済振興のための口実を与えてしまったようで、沖縄県のカボタージュ緩和要請はその後も継続して行われることとなった。

税制については内外航共に満足の行く結果になったのではないだろうか。特に外航のトン数標準税制の拡充が滑り込みで決まったことは、当初の状況から考えると大変なことだと思う。しかし内航ではいわゆる環境税の免税の喜びも束の間、暫定措置事業の早期解消を求める閣議決定がなされ、ポスト暫定のあり方についていまだすっきりしない状況が続いている。そのほか船員政策などでは、船員の確保育成についての議論が進んだが、政権が変わったから進んだという事ではなく、必要な議論を必要な時に行ったというのが実態ではないか。

このように見てみると、民主党政権においては、物流特に海運業界の現状認識や将来展望には疎く、日本経済と海運の関係もどこまで認識があったか疑われる。しかし本来この政権が目的としたのは、政治主導であり、予算編成の大幅見直しだったのだからそれでも仕方がないところであろうか。結局これらの当初の目標は、残念ながらほとんど達成されず、逆に消費税の税率を上げるということだけが決まった不思議な政権であった。

さて新しい政権に何を期待すればいいのだろうか。物流関係者なら誰もが思うのは経済の回復であろう。本来なら震災復興特需が発生し、日本のデフレは終わるとまで言われていた。しかし、武蔵野の逃げ水のような復興特需と長引く円高により、日本経済は相当疲弊している。テレビの地デジ化やエコカー減税が終わった後に、各種負担の増えることだけが決まっている日本経済を、いかに活性化させるかは大変な仕事である。

「官僚主導から政治主導へ」も「国の統治機構を変える」も所詮何かの仕組みを変えると世の中が劇的に良くなるという話だが、過去に何度も失敗している。つまり世の中そんなに単純ではないということなのだろう。社会の多くは長い歴史を積み重ねて現在があるために、特定の仕組みを悪役にすることも、それを取り除くことも難しい。

新しい政権には、目先何かの仕組みを変えると言って人気を集め無駄な時間を使う事ではなく、なぜ日本のデフレは止まらないのか、なぜ円高は進み株価は低迷するのか、そしてなぜGDPは増えず国民経済は疲弊して行くのかといった本質的な問題を、真剣に国を挙げて究明していただきたい。そしてそれを究明するためにも、無理やり自分の意見を通したり、事がうまくいかないと人のせいにするというようなことは止めて、時間と手間隙をかけて議論を纏め上げる大人の政治が復活することを切望する次第である。

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