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2013年2月

小畠 徹

選挙の後

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
小畠 徹

今、12月の下旬にこの原稿を書いている。ここ10日間ほど、16日の衆議院議員選挙結果の分析・解説を目にする機会が多い。「民主党への失望が自民党の大勝をもたらした。決して「風」が吹いたのではなく、民主党の政権運営のつたなさに辟易した有権者が「安定」を求めたのである。」とのこと。納得的である。「「反」とか「脱」とか「卒」と言った、具体策のない言葉だけの政策を掲げた政党・候補者は票を伸ばせなかった。4年前のマニフェスト選挙の反省・反動である。」というコメントもあった。これもまた納得的である。掛け声だけの候補者が当選しなくて本当に良かったと思う。

 足元の話題は、「景気浮揚」、「デフレ脱却」。2%インフレ目標、10兆円の追加金融緩和により、賃金を上げ、消費を増やす。かたや大型補正予算・建設国債の発行で、老朽化したインフラ中心に公共投資を増やすと言う。いずれも需用サイドの金融・財政政策である。公共投資増など、ある面、過去10年以上採られてきたメニューでもあり、どこまで効果が出るか疑問でもあるが、「デフレ均衡」に陥った我が国経済を刺激するには、やや逸脱的と言われても、金融・財政両面での思い切った対策が必要という点ではこれまた納得的である。

 「景気」というのは、多分に「気分」によると言われているが、将来に対する「確信」が無いと、家を建てたり、消費をしないであろう。そして、この「確信」のためには、国や産業がしっかりしているという「安心感」が必要である。そういう眼で我が国を見ると、少子高齢化とはいえ、1億2,800万人の人口を持つ無資源国である日本(人)が豊かな生活を送ろうと思えば、その存立基盤は「加工貿易」しか無いように思える。そして我々海運業もこの「加工貿易」による物流に依存して成り立っていると言える。「加工貿易」を成り立たせるためには、国内資源としての労働力(ヒト)と、安価なエネルギー(モノ)、そして安定した為替(カネ)が必要となる。さらに加えれば、貿易相手国との良好な関係、通商条約、関税条約の存在であろうか。最初の部分は、しっかりとした教育とある程度の自由度をもった労働環境によって担保され、二番目の部分は競争力のある電気料金、最後の部分は円・ドルレートの安定が必要となる。追加の部分は、EPA、TPPなどの整備・参加である。国益は守るにしても貿易面で開かれていなければどうしようもない。

 思えば、ここ数年これらはいずれも不安定であった。派遣労働者問題とその揺り戻し、CO2 25%削減目標設定前提での原発増設から、原発縮小・化石燃料への高依存、リーマンショック・欧州危機による安全通貨「円」への国際的な逃避、行き過ぎた円高、あるいはTPP反対議論、いずれもブレ幅が大きすぎた。ヒト・モノ(資源・エネルギー)・カネ、これらは「生産要素」であり、メーカーは生産要素を使って「生産物」を作り、市場で価格競争する。要素そのものがブレると、メーカーの存立基盤が揺らぎ、海外逃避などの空洞化をもたらす。また、通商協定が整備されていなければ関税の低い地域に移転する。「ブレ」は何も良いことをもたらさない。ブレの大きい世の中で誰が将来に自信を持てようか。「景気」は上がらないのである。

 安倍内閣発足し、経済政策に重点が置かれるとのこと。諮問会議も復活と聞く。結構なことである。「加工貿易立国」として、日本がどのように、成長していくのか、内需も増やしつつ世界の需要をどのようにバランスよく取り込んでいくのか、皆で考えなければならないと思う。その前提はどのように生産要素(労働力・エネルギー価格・為替)の安定化と通商協定の整備を図るかということである。政治に期待したい。

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