2013年4月
外国人船員問題
日本船主協会 副会長国際船員労務協会 会長
飯塚 孜
外国人船員との現在の労働協約の有効期間が2012年から2014年末迄の3年間であり、次の改訂まで若干の余裕があること、外航船員の社会において、労使間で先鋭的に対立するような大きな問題が表面には顕れなかったことから、昨年は国際船員労務協会(以下国船協)の活動も、大きな波風は立たず、平穏に推移したようにみられると思う。しかしながら、平穏にみえる中にも、大きな問題として顕在化してきたもの、あるいは長期的な懸念材料とみられるもの等がいくつかあるので、以下簡単に述べたい。
先ず挙げられるのは、海上労働条約2006(以下MLC)の発効(2013年8月20日)への準備と対応である。 MLCは、ILOが既存の60強に及ぶ船員関係の条約、議定書を一つに纏め、2006年2月に、加盟国の殆ど全会一致の下締結された条約である。特別に新たな規約が盛り込まれたわけではなく、日本船主協会(以下船協)及び国船協加盟の各社は実態上従来の運営で何ら問題は生じない筈であるが、過去曖昧に対応されてきたもの、あるいは各国でルールの解釈で違いがあったものなどに、文言上明確な表現が与えられたことにより、国によっては反って対応に苦慮するところが出てきている。例えば、キャデットの取り扱い、船長の時間外労働の問題等があり、これらは現在船協を中心にして、日本海運の慣行実態を認めるべく日本政府及び関連旗国へ働きかけを行っているところである。さらに大きな問題がポートステイトコントロール(PSC)の導入である。PSCはその実効を担保するものとして、船員がSTCW条約の条文に準拠しているか、旗国の政府に正規に認められているか、また種々の労働条件に違反はないかなどを、書類によって証明することが求められる。現場では、これら手続きの細部にまで遺漏なきよう準備しなくてはならないが、場合によっては時間的に十分な対応ができない恐れもあるので、関係各社と協力し万全を期して8月20日を迎えることができるようにしたい。
次は船員供給源としてのフィリピンへの過度の依存である。2007年1月のIBF協約登録船に乗り組む船員数は1,718隻に対し35,518人(内比国:25,692人:AMOSUP 26,878人)。それが2013年1月は2,371隻、48,728人(内比国:36,914人:AMOSUP 34,869人)となっている。日本海運が船隊を大拡張したことに伴う船員需要の大部分をフィリピン船員に求め、結果としてすでにあった圧倒的なシェアを更に上乗せしたことになる。フィリピンにおける船員予備軍の豊富なこと、教育体制が質量共にアジア各国を凌駕していること、中国への量的拡大は期待できないこと等その優位性は続くであろうし、日本海運にとり船員関連での最重要国であり続けることに何ら問題はないものの、冷静に考えると現状は少し偏りすぎてはいないだろうか?フィリピンとの官労使それぞれのセクターでの友好関係は保たれており、それを維持することに全ての関係者が、最大の努力を払っており、現状大きな問題は見当たらないが、将来何らかの原因で彼我の関係が損なわれることがあると、その影響が大きなものにならぬかと老婆心ながら危惧している。船員供給国として、フィリピンに対抗しうるような国は今のところ見当たらないが、各船主が、少しでも偏りを軽減すべく、本腰をいれて新たな供給源を求めていくことが必要ではなかろうか。
最後に国船協の最大の任務である、次回のIBF協約改訂とそれに続く全日本海員組合との2015年以降の賃金を中心とした労働協約交渉への対応である。元より、日本海運界が長年の不況から脱せず、船員の賃金を上げ得る状況にはないこと十分理解しているが、前述のごとく船員の最大供給国であるフィリピンのペソ高、あるいは経済発展に伴う生活レベルの向上等に伴う賃金アップ要求など組合側の理屈は容易に想像がつくので、今から関係組合との意見交換を密にし、日本海運にとり最善の結果を得るべく努力していきたい。