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オピニオン

2013年6月1日

中本理事長

円安礼賛……
素人が読み解く為替問題

日本船主協会 理事長
中本 光夫

アベノミクスが絶好調だ。もし80円を切るような円高が今も続いていたなら、日本の製造業は壊滅的な打撃を受けていた。エルピーダやルネサスが敗退しただけでなく、製造業のほとんどが海外にでるか、コストカットのための人員削減を含む一段の合理化を余儀なくされ、株安は勿論のこと、雇用の確保が大きな社会問題となっていた。雇用状況が悪化すれば、物が売れなくなり、デフレが一段と進む。デフレは中国をはじめとする後進国からの安い商品のせいで、円高とは関係ないとの説もあるが、雇用環境の悪化と輸入品の低廉化がデフレを助長することは否定できない。
 米連邦準備理事会議長がQE1からQE3まで毎回1~2兆ドルの資金で国債ばかりでなく不動産債券まで購入する破格の金融緩和策を用意し、欧州中央銀行総裁が無制限の国債購入を宣言する中で、日本だけが同等の措置を講じなければ、円高になるのは当然の帰結である。
 船舶の供給過剰のために厳しい状況にある日本海運にとって円安は救いだ。収入の殆どがドルであり、利益もドルで手にするので、円安になれば、円換算した際の収入も利益も大きくなる。さらに為替に左右されない円コストの部分があるので、これが収入とコストの差から生まれる利益の幅を押し拡げる。
 ところで円安が進むと、戦時中のようなハイパーインフレになるという人がいる。しかし日銀がつぎ込もうとしているお金は最大でこれまでの国債買い入れ額の1.8倍であり、この倍数以上に物価は上がりようがないのではないか。戦時中のように生産するものがない中で、国民を動員するために貨幣を際限なく印刷すれば途方もないインフレとなるのとは状況が全く違う。
 またインフレが進むと長期金利が上がり、国債が暴落するとの説がある。国債が紙くずになれば国の借金が棒引きになり国にとっては悪いことではない。国債を大量に抱える金融機関が持たないというが、国債は満期まで持てば額面で償還できる。満期まで持てるようにつなぎの策を考えることはそれほど難しいとは思えない。
 さらに円安になると円を売り浴びせられて1990年代にアジア等で見られた通貨危機が再現するという説もある。確かに実際の経済活動である貿易や貿易外取引の100倍のお金が為替取引されているとも言われており、先物も含めて為替は投機の対象であり、投資ファンドが鵜の目鷹の目で狙っている。しかし落ちたとはいえ世界第三位の経済大国であり、いまだに自動車をはじめとする輸出産業を抱える日本に大幅な円安という慈雨が降れば、むしろ貿易立国としてのかつての輝きを一気に取り戻すのではないか。それよりも同盟国アメリカが日本売りには救いの手を差し伸べると思う。これまで日本は何度もドル売りに晒され崩れてもおかしくない米国経済を大量に米国国債を買うことで支え続けてきたのだから。
 いずれにしても中国にGNPで、シンガポールに一人当たりGNPでそれぞれ抜かれた今、世界の各国は死に物狂いで経済発展、生活の向上に努めており、気が付いたら日本がアジアで一番経済発展が遅れた国にならないように、一日も早くデフレを克服し、成長の歩みを取り戻すようにみんなで必死に努力することが肝要だ。

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