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オピニオン

2013年7月1日

武藤副会長

パナマ運河の通航料について

日本船主協会 副会長
商船三井 代表取締役社長
武藤 光一

パナマ運河庁(以下、運河庁)は昨年10月に続いて、今年の10月にも一部船種を対象に運河の通航料の値上げを実施するとしているが、過去10年ほぼ毎年何らかの値上げを強行してきていることから、今後の動向に憂慮している。パナマ運河と並んで国際物流・海運にとって重要なスエズ運河でも、一方的な通航料の値上げをどう抑制するかが喫緊の課題となっているが、ここではパナマ運河に絞ってその問題点、対応案を述べたい。

 運河庁によると2015年央に開通予定の第三閘門の拡張工事の原資が必要とされている。当初2006年の時点では、総工費52.5億ドルのうち23億ドルの借入金の返済を賄うため2025年までの20年にわたり年平均3.5%アップとしていたが、実態はこれを上回る値上げが続いている。

 もとより、パナマの国家財政において構造的に運河や海事セクターは大きな収入源であり、年々重要性を増してきている。運河の拡張工事に限っても多額の資金が必要となっているという事情は理解する。ただ、ここで彼らに考えてほしいのは、パナマ運河はパナマの最も重要な国有資産であると同時に、世界の物流の円滑な流れを維持するための国際的な公共インフラでもあることだ。その公共性がゆえに、今般の拡張工事によりさらに国際貿易が促進され、日本の国益(日本は世界第4位の運河利用者となっている)にもかなうとの判断で、国際協力銀行(JBIC)が最大の融資者(8億ドル)となった経緯があるはずだ。

 運河庁には、あまりに一方的な料金の値上げを続けるとトレードの大きなリスク要因となり、延いては世界経済の発展の妨げとなることを認識して欲しい。米国東岸・ガルフ地区からのシェールガス・LPGのアジア向けなど、今後出てくる国際物流プロジェクトもしかり。当然、価格競争力のあるシェールガスに期待を寄せる日本のエネルギー政策への影響も大きい。

 従来、海運界は自助努力としてその値上抑制と安定的な料金政策を運河庁に訴え続けてきたが(昨年12月には日本船主協会トップと運河庁間のハイレベル会合に結実した)、政府レベルでも、昨年10月には野田総理(当時)から来日したマルティネリ大統領に対して、さらに、この5月にはパナマを訪問した岸田外相から同大統領および外相にも強い懸念を表明していただいている。かかる政府の理解・支援に力を得て、引き続き、各国海運当局とも連携してパナマ側との協議の場を維持していきたい。重要なのは、双方向かつ実効性ある話し合いを通して、トレードを阻害しない、予見可能な範囲に今後の値上げを抑制すること。その過程では、海運業界が拡張後の運河の安全かつ効率的な運営のために何ができるか、建設的な意見交換も含めて国際貿易の発展に貢献できる仕組みづくりにつなげていきたい。

 繰り返しになるが、世界経済を支える重要な国際物流インフラであるパナマ運河、およびパナマ国の発展は、海運人として期待するところであるが、これまでのような一方的で無計画な通航料の値上げは日本のみならず、世界経済の発展を阻害する。運河庁をはじめとするパナマ当局には深慮を求めたい。

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