2013年8月1日
いろいろな競合
日本船主協会 常任委員飯野海運 代表取締役社長
関根 知之
随分前の話になるが、ケミカル船でパキスタン出しアジア向けのエタノール(エチルアルコール)を積んだことがある。エタノールといえば、学校の実験室にあったアルコールランプを思い出す。この燃料は飲めるのかとか、一文字違ったメタノールを飲むと目が潰れるとか聞かされたことがある。
飲用に適するものであれば、焼酎やウイスキーにもなるのかもしれない。積地で詰めたサンプルボトルのスペックは、インスペクターはどうやってその品質を確かめるのだろうか、まさか飲んで確かめてはいないだろうとか、船員さんがカーゴ・タンクを覗き込んでいるうちに中に落っこちてしまっては大変なことになるな、などといろいろ余計な気を揉んだ。
そうこうしているうちにB/Lのドラフトが届いた。そこにはCIEと書いてあった。ああ、Crude Industrial Ethanol=工業用だったのか。エチレンから作ったエタノールだったら、飲める代物ではない。
パキスタンからは、モラセスから作ったエタノールがずいぶん輸出されており、欧州やアジア向けに動いている。食物から作るエタノールは大きく分けて糖質原料からつくるものと、でんぷん質原料から作るものがあるが、糖質原料とは、サトウキビ、テンサイ、モラセス、みかんなど。でんぷん質原料は、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモや麦から作れるという。こうみると、やはり食物との競合を連想させるものばかりである。飯野海運の石油製品船やケミカル船で「バイオ」と接頭語がつくものを運ぶ頻度も増えてきているが、この種のエタノールは、食用ではなく自動車の燃料用などに使われている。
最近は、食物と競合しない原料から作るセルロース系エタノール等からつくるバイオ燃料の研究も、すでに実用化の段階となってきているニュースを多々聞くようになった。藻の研究もその一部。一方で、燃料としてのガソリンと競合しているものについては、CTL(Coal to Liquid)といった石炭からつくるガソリンも南アフリカや中国で生産されており、一方でシェールオイルやシェールガスからも燃料は出てくる。
そのような中、今年5月に国連の食糧農業機関が、昆虫で食糧問題解決の提案を行った。昆虫は増殖が簡単で、飼料も少量で済むため環境にもやさしく、不飽和脂肪酸、鉄分、ミネラル、ビタミン、プロテインを豊富に含み、健康に良いという。現在でも約2億人が昆虫を常食としていると聞くが、昆虫は家畜の飼料として有力な供給源となっている。
すると、近いうちに、ドライバルクの積荷で、Insects in Bulkが登場する日も近いのかなと、また余計なことを考える。