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オピニオン

2014年3月1日

工藤

Captain Phillips

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長 小畠 徹

昨年12月に「Captain Phillips」という映画を観ました。何年ぶりかに映画館に行ったのですが、椅子がゆったりしていたのと安かった(60歳以上は1000円)のに驚かされました。(本稿とは全く関係ありませんが。。。。)

 この映画をご覧になった方も多いと思いますが、ソマリア沖で貨物船が4人組の海賊に襲われ、トム・ハンクス演じる船長(Capt.Phillips)が人質になってしまうという、実話をベースとした緊迫感のあるストーリーです。映像というのは強い印象を与えるものですが、(1)海賊行為そのものは恐ろしいというか理不尽、あってはならないものだということと、(2)米軍特殊部隊の強さというか、凄さ、ある意味恐いという思いを強く持ちました。映画そのものは面白いし、トム・ハンクスの名演技も素晴らしいのですが、海運ビジネスに従事する者から観ると、正直、単純に楽しむどころの話ではなかったです。(ご覧になっていない方は是非レンタルビデオででも借りてご覧になってください。)

 (1)についてもう少し感想を述べますと、本来、守られるべきものは「船舶」・「荷物」・「船員」すべてなのですが、やはり「船員」が第一かと思わざるを得ませんでした。保険でカバーなんぞと言っても生命や人質になってしまうことはカバーしきれるものではありません。(もっとも映画なのですから「船舶を守りました。荷物を奪還しました。」では観客を呼べるお話にはなりませんが。。。。)わが国も昨年法律が整備され、国民生活に不可欠な輸入品(原油)を積んだ日本船舶に武装ガードを乗船させることができるようになりました。船舶を保有・運航する立場の者としては安全確保のための選択肢が拡がり、誠に結構なことと思うのですが、今後、船種・対象物資などについて、さらに自由度が増せばよいと期待するところです。

 (2)についてはもう少し思いは複雑です。年末に南米エクアドルで新婚旅行中の日本人が襲われるという不幸な事件がありました。一年前にはアルジェリアで天然ガス精製プラント基地が襲われ日本人技術者が人質となり犠牲となりました。それぞれ背景なり事情は異なるのですが、海外で活動する日本人が増えると事件に巻き込まれるリスクが増え、その救済に国がどう対応すべきかという話に発展していきます。米国であれば、この映画のように軍の特殊部隊が登場して、公海上のみならず他国の領地でも(時には断りもなく)進出し、オペレーションを行うということになるのですが、日本の場合にはそうはいきません。2009年にソマリア沖・アデン湾に自衛隊を派遣することを決めた際にも、一部の人たちは強く反対しました。憲法違反であるという法律論から、海外派兵の歯止めが効かない、なし崩しになるといった議論がありました。こうした中で、今後PKOを中心に自衛隊の海外派遣は増えるかもしれませんが、「日本人が人質になったから助けに行く。」ということにはならないでしょうし、期待すること自体に無理があると言わざるをえません。となりますと、海外で働く、または仕事で出かける日本人は「自らは自らが守る。」ことをベースにしなければならないのですが、派遣する企業も安全確保に最大限の努力を払わなければならないのではないでしょうか。リスクは海賊のような暴力行為だけではありません。パンデミクスや地域文化との摩擦などもあります。こういったことを常にリマインドしていくことも求められます。さらに言うと、こうした安全確保にはコストが掛かります。誰かがコスト負担をしなければなりませんし、日本の社会全体もそのコスト負担に理解を示さなければならないと思います。「水と安全はタダではない。」と、ずいぶん前にユダヤ人のペンネームで警句を発した方がおられましたが、その通りだと思います。

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