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オピニオン

2014年4月1日

飯塚

IBF労働協約交渉

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長 飯塚 孜

2015年以降のFOC船配乗の外国人船員の労働条件を決めるIBF(International Bargaining Forum =ITFとの労使間中央交渉の場)における労働協約改訂の交渉が漸く佳境に入りつつある。昨年10月に労使双方の要望をまとめたウィッシュリストを取り交わした後3回目の交渉が4月中旬にロンドンで行われる。ITFの要求は31項目の多岐にわたるが、最大の関心事である賃上げに関しては、交渉上のタクティックとはいえ、現下の海運状況からみて非常識ともいえる嵩上げを求めている。

 使用者側は、ここ数年の厳しい状況と較べると、海運界にも先行きわずかな灯りはみえ始めたものの、尚回復への足取りは弱く、賃金アップを受け入れる余裕は全くないとの立場を堅持していくつもりである。

 以上は使用者側として当然の心構えであるが、今回は、今迄以上に以下二点の要素を念頭におきながら交渉の展開を図っていかなくてはならないと考えている。

 一つは、2013年8月に発効した海上労働条約(以下MLC)に基づくAB船員に対する最低基準賃金の設定(強制ではなく勧告ではあるが)である。本年2月に開催されたILO海運部会では、この最低賃金を現行$585から2015年$592/月、2016年$614/月へと大幅にアップさせることで決着した。現行のIBF協約上のAB船員のレベルが$599/月であることから、2016年以降も賃上げゼロを貫くと、IBF協約とILO最低賃金が逆転することになる。いままでは両者の賃金に相応の開きがあったので、IBFはそれほどナーバスにならず、独自の判断で決定できたが、今回は新たな状況に如何に対応するか、熟慮する必要があろう。

 二つめは、船員供給国の組合(特にフィリピンのAMOSUP)の動向である。最終的な労働協約改訂は中央交渉の決定を受け、個別の地域交渉の場へ移行し、決着する。ITFの規定では、地域交渉においては受益船主国の組合(全日本海員組合)が交渉権を持っているので、国船協にはAMOSUP等の意見は明らかにならないままに決着に向かいかねない。ご既承のとおり、国船協に登録している船員数4万8千人強のうちAMOSUPの船員は3万5千人強と約73%を占めるに至っている。日本海運に占めるFOC船及び外国人船員が少数であった時代は過去のものとなっている現在、圧倒的多数の船員供給国の組合との直接対話なしに、その最大関心事の賃金が決定される方式は改められてもいいのではなかろうか?

 今回の協約交渉の過程において、上記2つの問題が影響して日本海運界にとっておおきな不満が残る結果となったとしたら、今後真剣に労使交渉の枠組みを再検討していく必要があるかもしれない。

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