JSA 一般社団法人日本船主協会
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オピニオン

2014年12月1日

小林副会長

急がれる次世代船員の育成

日本船主協会 副会長
日本郵船 代表取締役社長
工藤 泰三

日本企業による「事業拠点の海外への移転」はここ10年で、もはや耳慣れた話となりました。販路の拡大、低税率による節税効果、円高対策など様々なメリットが考えられますが、やはり人件費の安さといったコスト削減効果が企業の海外移転への大きなモチベーションになったに違いありません。海運業は、その事業特性からいち早く海外進出を進め、最もグローバル化が進んだ業界です。世界を舞台に活躍したい若者にとって、海運業界は非常に魅力的な職場と言えるでしょう。

一方、船員養成に限ってみると、こうした海外シフトの潮流は新たな局面を迎えているようです。1985年のプラザ合意による急激な円高で日本人船員は一挙にそれまでの競争力を失い、混乗化や外国人船員へのシフトといった現象が急速に進行した結果、今や日本商船隊を運航する船員の約95%が外国人船員というのがその現状です。しかし、その船員供給国の内訳を見ると、クロアチアやルーマニア等の東欧系と、フィリピン、インドといった一部のアジア諸国に限られています。船上生活に耐えうる「気質」と教育・訓練を受けた「専門性」を兼ね備えた人材は世界広しとはいえ限りがあります。豊富な人的資源を抱える他産業とは一線を画して、海運業界は、限られたマンニングソース(船員供給源)の下、優秀な人材を取り合っている状態です。そんな中、日本人船員がその「技術力」を背景に再び脚光を浴び始めています。

近年、海運の新しいビジネスとしてLNGや海洋事業といった高度な技術を必要とする職域が増えており、専門的な知識・経験を持った船員は引く手あまたの状態です。商船系の海事教育機関の充実した教育プログラムや各船社の最先端の研修施設を使用した高度な研修等により、世界的に見ても日本人船員の技術力は高く評価されつつあります。また、こうした技術力を船上において安定して発揮するのに、「真面目」で「粘り強い」そして「チームワークを重んじる」日本人の気質は最適と言えるでしょう。顧客からも安全運航のキーとなる船員に日本人を求める声が依然残っております。

また、以前は相対的に割高であった日本人の船員費も人材争奪戦の結果、外国人船員の給料が上昇を続け、東欧系船員と比較しても日本人の方がむしろ競争力が出始めている状態です。

このように日本人船員の需要が見込まれる中、一方で船員という職業が若者の間でなかなか認知されていない現実が浮き彫りになってきております。

大手生命保険会社が毎年実施している「大人になったらなりたいもの」という調査を御存じでしょうか?最近の子供の人気第1位は男子「サッカー選手」、女子「食べ物屋さん」といわゆる定番が占めましたが、職業としての船員は認知度が低く、同じ運輸系である電車・バスの運転手や飛行機のパイロット等に比べても大きく水をあけられており何とも悲しい状況です。「四方を海に囲まれて…」の謳い文句がなんとも空虚に聞こえてきます。

海運業の発展、ひいては日本のシーレーンを考えたとき、海運業界に身を置く我々にとって、「船員の魅力」を若年層に対し様々な形でアピールしていくことが急務であります。その為、日本郵船では、「郵船みらいプロジェクト」と題し、現代の小学生・中学生・高校生の人たちに次世代の船員を志して貰えるべく、こうした学生を対象に海運業界の魅力を伝える広報活動に力を入れ始めました。

いまこそ海運業界を挙げて問題意識を共有し、立場や年代を超えて多くの人たちから御意見・御提案を求めて、船を身近に感じてもらえる機会を増やして行くべきではないでしょうか。

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