JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2015年2月

オピニオン

2015年2月1日

鈴木副会長

北米コンテナ航路における
船社サービスの変化

一般社団法人 日本船主協会
副会長 鈴木 修

今から30年前、1980年代半ば私は商船三井で北米航路を担当していた。丁度アメリカではレーガン政権の下で規制緩和が推し進められ、海運もその例外でなく、U.S. Shipping Actの抜本的な改訂に伴って同盟制度は実質的にその機能を失い、護送船団方式の象徴でもあった邦船社によるスペースチャーター体制の瓦解もこの頃であった。

プラザ合意により一気に円高が進んだため、北米向けの輸出マーケットも日本から東南アジア諸国にシフトし、同様に海運界でも韓国、台湾、中国といったアジア船社がコンテナ輸送で急速にシェアーを伸ばしていった。この時期は米国鉄道がダブルスタックトレイン・サービスを発展させた時期でもあり、米国東岸や内陸部向けのインターモーダルサービスが急速に進展していった。大きなうねりの中で完全に立ち遅れた邦船社の(北米コンテナサービスにおける)事業採算は急激に悪化し、赤字が恒常化していた。

とはいっても、簡単に白旗を揚げるわけにはいかず、先行組になんとかついていかなければならない。当時、米船社が次の一手として既に始めていたのは、「コスト競争力強化とサービスの差別化」であり、船型の大型化、(西岸の)自社ターミナルの拡充、専用ダブルスタックトレインの運行、システム開発による貨物情報の提供等であった。これらはいずれも巨額の投資を伴うものであったが、それが出来なければアメリカのバイヤーに相手にしてもらえないということで、邦船社もやむなくそれらの分野に投資を行っていった。競争他社よりも1日でも2日でも早いトランジットタイムを売り物とし、自社ターミナルのサービス優位性やシャーシの潤沢性を喧伝し、スケジュール表にはあたかも船が内陸に入り込んだような内陸地点の到着日時を記し、貨物情報をPCから得るのにどれほど便利か顧客に売り込んだものだった。

当時社内では、アジア/欧州航路では自社ターミナルも持たず、シャーシも荷主手配、貨物は原則港渡しなのに、なぜ北米航路では(赤字を出しながら)そんな過剰サービスを行わなければならないのか、という疑問がしょっちゅう投げかけられていた。当時の私の答えは決まっていて、「欧州航路では、力の強い欧州系のフォワーダーが Door to Doorで物流をコントロールしているから、船社に Port to Port以上のサービスは要求されない。しかし北米航路では、多くのケースでアメリカのバイヤーが物流を管理し Door to Doorで彼らの基準に合うサービスを船会社に求めるから」というものであって、その答えそのものに間違いはなかったと感じている。

ただそうしたバイヤーの要求に応えることに広い意味での経済合理性があったかと、自問してみると首を傾げざるをえない。当時から30年を経た今日の北米航路を見てみると、引き取り用のシャーシは船社ではなく荷主が手配するようになっているし、またダブルスタックトレインも A社専用のシカゴ向けといったものではなく定時運行列車を各社乗り合いで利用するのが主流になっていると仄聞する。

今、アメリカの西岸港で、荷役の遅れが大きな問題となっている。巷間報じられているようにILWUとの労働協約の更改が遅れていることも一因となっているのかもしれないが、やはり大型船の就航による荷役労働者の不足やシャーシやローカルトラックの不足がより大きく影響していると思われるし、また船社縦割りの専用ターミナルという枠組みが弾力的な労働力や機材の融通を妨げているようなこともあるのかもしれない。アメリカのゲートウェイとしてのロサンジェルス港への過度の集中、そしてそこでの極端に船社縦割化されたコンテナ・ターミナルが、入港するコンテナ船の大型化の経済合理性を阻害するようなことがないことを切に望んでいる。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保