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オピニオン

2015年6月1日

小野理事長

ヨーロッパの海運政策

日本船主協会 理事長
小野 芳清

去る3月中旬、約2週間にわたって、ヨーロッパ主要海運国の海運政策調査に行ってきました。現在船主協会で行っている「新外航海運政策勉強会」の一環として、既に我々が得ている具体的な海運振興策の裏にある基本的な考え方を探ろうというのが目的でした。訪問先は、ドイツ、デンマーク、オランダ、イギリス各国の海事当局と船主協会、及びベルギー・ブラッセルにあるEU本部と欧州船主協会、それにこれらの国にある海事関係の民間調査機関です。

いろいろな方々から話を伺うことができ大変に参考になったのですが、「ヨーロッパは進んでいるなあ!!!」というのが私の偽らざる率直な感想です。

話を聞いた方々が述べていたことにほぼ共通していた点がいくつかあったので、まずはそのポイントを以下に記してみます。もっとも、現在では外航海運政策に関するEUガイドラインがあるため、言うことが似てくるのも無理からぬところがありますが。

(1)外航海運に特別な税制(特にトン数標準税制)を導入しているのは、自国を海運各社のビジネス拠点として魅力あるものにすることが目的である。

(2)海運ビジネス振興は海事クラスター振興の起爆剤である。

(3)国家として海事ノウハウを伝承することは必須であり、特に自国籍船員を維持することが必要である。そのためにも自国内で海運ビジネスが行われることが必要である。

(4)海運ビジネスにとって魅力ある地とするため、最低限のEU籍船の確保は意識するものの、自国籍船に拘った制度にはしない。

以上が、外航海運産業に対し他産業にはないような特別な国家制度を持つ際のヨーロッパ主要国の基本的な考え(=政治的価値判断)です。

一方で、外航海運特有の制度を持つことに対して一般国民及び財務当局の理解を得ることは至難の業であると、いずれの方々もぼやいていました。いずこも事情は同じです!!!

ただ、転んでも只では起きない強かなヨーロッパ!!涙ぐましい努力を行っていました。例えば、海運の重要性を示す具体的な数値を盛り込んだ魅力的なパンフレットを作成・配布したり、政治家をはじめとする多くのオピニオンリーダーに声をかけて海事クラスター共同でセミナーやレセプションを開くなど、自分達のプレゼンスを高めるために一生懸命汗をかいていました。

20年以上も前のことですが、私は在英日本国大使館の参事官をしていました。私の在任中にちょうど大使の交代があり、英国を離任される大使が館員を前に挨拶をされましたが、その挨拶の中で今でも印象に残っている言葉があります。それは、「今の英国の状況をしっかりと見ておきなさい。それが20年後の日本の姿ですから!!!」。

我が国においても、外航海運政策に関する基本的な考え方が、早くヨーロッパのそれに近づくことを心から願ってやみません。

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