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オピニオン

2015年12月1日

i池田副会長

なぜ租税特別措置は必要か

日本船主協会 副会長
商船三井 代表取締役社長
池田 潤一郎

この文章が掲載されるころには、平成28年度税制改正大綱作成に向けての議論も最終局面を迎えていることと思う。本年の日本船主協会の税制改正重点要望は「国際船舶に係る登録免許税の特例措置」の拡充と延長。船を建造して登記したり、抵当権を設定したりする場合、多くの国では登録免許税・手数料の類は発生しないか、せいぜい数万円程度の少額である。しかし日本では船価50億円の貨物船で、それぞれ2,200万円程度の費用が必要となる。現在これを1,925万円程度まで軽減して頂いているが、これを継続して頂きたいというきわめて控えめな要望である。
 また平成29年度以降には、「船舶の特別償却制度」、「船舶の圧縮記帳制度」、「トン数標準税制」といった租税特別措置や「固定資産税の特例措置」(地方税)が期限を迎える。「船舶の特別償却制度」は2年毎に期限を迎えるのだが、平成27年度の交渉の際は、「既に制度開始(1951年)から63年経過している最古の租税特別措置である」「利用に偏りがある」等として、一部マスコミには、批判的な見方があった。また「法人税率を下げるための原資確保には租税特別措置の廃止が必要」といったコメントもある。しかしながら、制度が長期間存続しているのは、その制度が極めて重要であり、本来であれば恒久税制にすべきという証左に他ならない。また法人税率引き下げの目的は国際競争力の改善にあるが、租税特別措置の廃止は国際競争力を損なうことにつながり目的に矛盾している。詳細は後述するが日本の外航海運は外国のライバルと同じ土台に立てていない。批判に対し、非常に皮相的な見方だとあらためて反論したい。

 われわれ日本の外航海運会社は、世界中の外航海運会社との激しい競争にさらされている。日本の船会社という理由だけで、荷物を積んでいただけるお客さんはおらず、サービスを向上し、差別化することに各社が一生懸命取り組んでいる。しかしながらサービスを提供するための「コスト」に大きな差があっては、勝ち抜いていくことは極めて難しい。外国の船会社と同じ利益をあげても、より多くの税金支払いが求められれば、新しい船の建造、新しいサービスの開始等に投資できる金額が減り、やがて競争力を失うことになる。また、日本に国際的な企業は多いが、外航海運会社の特色として、「本社地課税」という制度がある。世界中どこであげた利益でも、それが外航海運業に由来するものであれば、われわれは本社が存在する日本で、世界中の利益に対し税金を納めている。日本の外航海運会社にとって日本の税制は会社に及ぼす影響が非常に大きい極めて重要なものということになる。

 海運先進国といわれる欧州では、法人税率が日本より低い上に、更に様々な租税特別措置が外航海運会社に認められている。たとえば多くの国において船の建造後、当初5年間に償却できる金額は、日本で「船舶の特別償却制度」を利用した場合よりも大きい、また非常に重要な制度である「トン数標準税制」も船籍や船員の国籍等の要件なく、幅広く認められている。繰り返しとなるが、海運先進国では、法人税率が日本より低い上に、更に日本よりも多くの、より効果の大きい租税特別措置が認められているのである。われわれの願いは、世界のライバルたちと、同じ土俵で、同じルールで競争させて欲しい= 「イコールフッティング」という一点につきる。日本の租税特別措置の拡充・維持がなぜ必要かご理解いただけるのではないだろうか。
 日本には外航海運会社の他、船主、造船所、舶用機器、港湾、倉庫、金融、保険といった海に関わる企業等の集まり、いわゆる「海事クラスター」が存在し、多くの人が働き、日本の輸出入の99.6%を担っている海上輸送を支えている。
 四方を海に囲まれたこの国にとって、如何に海運業が重要か、海事クラスターを発展させていくことがこの国の産業力強化にとって如何に必要か、そしてそのために「租税特別措置」が必要不可欠なものであるということを、ぜひ考えて頂きたい。

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