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オピニオン

2016年5月1日

小田副会長

海事産業の重要性への
理解に向けた取り組み

日本船主協会 副会長
小田 和之

四面環海で、国民生活や産業活動に必要な資源が殆どないわが国が、今日も繁栄できているのは、海運を中心とした海事クラスターのおかげである。これは、当然誰しも知っている事実であると信じたいが、一般の方々の多くは知らないようだ。
 小学校で使う教科書には、エネルギー資源や原料から製品まで、輸出入物資の99%以上が船で運ばれているとの記載はなく、わずかに、物資や製品を運ぶ船の写真やイラストなどが掲載されているにすぎない。また、教科書に大きな影響を与える文部科学省が定める「学習指導要領」の関連する記載は以下の二点である。
 一点目は、農業・漁業からの産物に関し「生産地と消費地を結ぶ運輸などの働き」、二点目は、国民の生活を豊かにする「工業生産を支える貿易や運輸などの働き」である。それぞれの解説書を読むと、前者は陸上輸送や海上輸送、航空輸送の働きを具体的に調べることと記載されてはいるが、あくまでも農・水産物の輸送に限られている。後者になると、「例えば、自動車の生産に必要な鋼板の原料となる鉄鉱石が外国から船で運ばれ輸入されていることを取り上げる。」と例示ではあるが、外航海運の役割について唯一記載されていたところである。
 「海の日」が祝日になり、また、海洋基本法も制定され、その基本計画には、海洋教育の重要性が指摘されている。当然、生活に必要な電気やガスなどのエネルギー資源などはすべて船によって運ばれてくる、あるいは海上輸送の確保はわが国にとっての死活問題である、などと記載されて然るべきと思うが、残念ながら上述の記述にとどまっている。これでは、先生方や子供達には伝わらないであろう。
 現在、この「学習指導要領」の改定について、文部科学省の中央教育審議会で検討が行われている。ほぼ10年毎に見直されているもので、何とかこの機会に、海運やそれを支える海事産業の重要性について、より具体的に記述してもらうことを切にお願いしたい。昨年9月に、海事関係者としては初めて、学習指導要領に『海事産業の重要性』を入れてほしいという要望を提出した。しかも、日本船主協会単独ではなく、海事関係7団体の連名による要望書である。主旨が伝わり、学習指導要領やさらには教科書にも具体的に記述されるよう、国土交通省と海事団体が連携して、文部科学省や教科書会社等の関係者に粘り強くお願いを継続していきたい。ただし、こういった要請が実現されるように、並行して、船を身近に感じていただく関係者の不断の努力もまた重要である。
 その一つは、一般の方々、特に学校の先生や生徒の皆さんに、船をはじめ港湾などの施設見学会を通じ、船を身近に感じていただくことである。日本船主協会は、昨年度から一般商船の見学会を実施したが、今年度からは見学会を毎年実施してきた造船や港湾などの関係団体とも連携し、より多くの方々に参加いただく有意義な見学会となることを期待したい。
 さらには、このような見学会を通じて興味を持っていただいた学校の先生方には、資料提供を行うなど、私たちの生活や産業活動には船がなくてはならないということを子供たちに授業の中で伝えていただく、このような地道な取り組みも大切であり、また教科書への反映の近道ではないかと考える。

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