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オピニオン

2016年9月1日

栗林常任委員

内航海運の活性化に向けた
検討会に期待する

日本船主協会 常任委員
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏吉

リーマンショック以後の世界的な景気低迷と中国経済の後退から、海運市況は低迷を続けているが、内航海運においてもこの二年ほどの市況の落ち込みは深刻である。
 内航海運では、産業基礎資材としての鉄鋼、石油、セメント等がそれぞれ多くの専航船を抱えている他、農産物や紙パをベースカーゴに、多くの定期航路で一般雑貨の輸送も行っているわけであるが、世界的な鉄鋼不況やアベノミクスの行き詰まり、更にはエネルギー環境の変化などからどの船種も厳しい市況にさらされている。
 そんな内航業界の今後の方向性を議論する検討会が国土交通省で4月から始まっている。
 同じ戦後の海運行政でも、外航が国際競争の中で集約を繰り返して来たのに対し、内航は狭くて浅い国内市場の中で、膨大な数の中小船主の経営の安定を念頭に置いたため、行政の指導の下、業界が船腹調整制度を行うこととなり、それが形を変えて暫定措置事業として現在まで続いて来た。しかしその暫定措置事業も開始から15年を過ぎ、一部形を変えてあと5年程度で終了へ向けてのカウントダウンが始まった。そんな時期での約10年振りの検討会開催はこれからの内航海運行政の在り方を見直すにはいい時期だと言えるだろう。検討会は早急に取り組むべき課題と今後のビジョンに向けた検討と大きく二つに分かれ、現在前半の中間とりまとめが行われているところである。
 ただ残念ながら、内航海運の直面する問題は大きく多岐にわたる。早急に取り組むべき課題においても①産業構造強化②船員確保育成③船舶建造④業務効率化⑤需要獲得の五点に上る。そしてこの五点はまさに喫緊の課題ばかりであるが、同時に近年継続して内航海運の問題として取り上げられてきたもので、そこからもこの業界の抱える問題の大きさと根深さが推察される。
 その五点をさらに絞り込めば、二つの高齢化として近年ずっと語られている②船員確保育成と③船舶建造、さらに国交省が積極的に取り組んでいる生産性革命の一環としての④業務効率化になるのであろう。
 ②と③については、日本経済が長期低迷する中、内航が失われた15年の間に本当に貨物量も失って市況は低迷し、新造船への乗り換えがぎりぎりまで遅れるとともに船員の採用も後回しになるという悪循環が原因であった。しかしここ数年の内航船の建造量や海技教育機関の卒業生の就職状況をみると、ようやく自立反発の域に入っていることが確認され、暫くこの状況が続くこととなりそうである。
 もちろんこれから先、どの程度の業界規模に落ち着くのかはまだ混沌としている。貨物量、船舶数に船員数という三つの因数から内航は成り立っているだけに、将来の貨物量に見合った船舶と船員をどう確保し、バランスを取っていくかは、日本経済の進路により大きく左右される未知の領域である。産業界全体との対話がさらに必要な部分となろう。
 それでは④についてどうとらえればよいのだろうか。生産性革命は現在の国交省の主要な政策となっていて国内物流においても物流生産性革命を断行すると勇ましい。しかし政策の内容は既存の業務改善などが中心で、革命と呼ぶには程遠い内容と残念がる声もある。検討会で議論された内容も、荷役の効率化が中心で物流が大きく変わるという雰囲気は感じられない。
 そもそも内航海運は、現在でも他の輸送モードに比べて一人あたりの生産性は高く、大量輸送の特性を活かしてさらに生産性を高めることは可能である。本当に国内物流において生産性革命を断行しようというのなら、明らかに生産性の高い海運の利用率を、例えば拠点間輸送において目標値を定めてシフトを促すような、大胆な提案をしてはと思う。そうすることによって一番大切な⑤需要獲得につなげていくことが大切だ。
 このように課題の多い内航海運の今後を検討するには、日本経済国内物流全体を踏まえた議論が必要となるべきである。検討会がそのような形で今後続いていくことを期待するばかりである。

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