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オピニオン

2017年5月1日

村上副会長

国際海運分野における保護主義の蠢き

日本船主協会 副会長
小田 和之

この数年、政治の世界で保護主義の動きが急速に台頭してきた。昨年6月の英国のEUからの離脱決定、11月の米国大統領選挙におけるトランプ氏の勝利は、その象徴的な出来事としてよく引き合いに出される。英国や米国のみならず、欧州大陸諸国においても、保護主義政策を掲げる政党や政治指導者への支持が広がりつつある。「自由貿易」を旗印に、経済と社会のグローバル化推進役であった先進国にその動きが顕著なのが近年の保護主義の特徴である。背景にはそれぞれに事情があるようで、「行き過ぎたグローバル化に対する反動」と単純化することもできない。国力の減退や国内格差拡大などの経済問題から移民・宗教にかかわる問題まで、いろいろな要素が複雑に絡み合っているように思える。偏狭なナショナリズムに陥ることがなきよう願うばかりである。

 国際海運は、「海運自由の原則」の下で世界貿易の拡大を支え、そのことにより自らも成長してきた。ところが、近年、その国際海運の世界にも保護主義の動きが出てくるようになってきた。過去1960~80年代にかけ、発展途上国と呼ばれた国々で貨物留保の動きが盛んな時期があったが、最近の動きは先進国や新興国と呼ばれる国々の一部でみられることに特徴がある。政治の世界での保護主義の台頭と符合する部分があるのである。

 米国では、シェール油田の開発進展により原油とLNGの輸出が解禁されたが、その輸送を自国建造籍船に留保しようという動きが強まっており、いくつかの法案が議員立法の形で提出され、一部は成立している。経済合理性の視点からは、輸出の促進を阻害することになりかねないものであり、米国内外からの懸念や批判も根強いが、動きは止まりそうにない。また、同国では、領海外の排他的経済水域に設置された海洋構築物と本土間の輸送をJones Act(米国カボタージュ法)の適用対象にしようという動きもあると聞く。海洋権益に付随する新たな考え方かもしれぬが、規範として広がるようなことになれば、世界の海上輸送秩序に与える影響は小さくない。

 一方、ロシアでは、予てより、同国より輸出される石油・ガスにロシア籍船の使用を義務付ける法案が検討されていると報じられていたが、今般「通商航海法」の改正という形で成案が示された。条項の中には、ロシア北極地域において産出された石油・天然ガスの輸出にロシア籍船使用を義務付けしているように読み取れるものが含まれている。その他にも、南アフリカやインドなどの新興国で貨物留保に向けての動きが見られる。

 また、貨物留保策とは性格を異にするが、昨年来、政府による自国海運や造船業への大規模な支援策が東アジアの国々を中心に打ち出されている。「歴史的大不況」と形容される海運・造船不況の中で、何とか自国海運と造船業を維持したいということであろう。同じ業界に身を置くものとして、動機はよく理解できるし、支援そのものを否定するものではないが、それが一定の節度を超えて過度に走ると、市場の攪乱要因になりかねない。関係国政府の冷静な対応が望まれるところである。

 国際海運は、開かれた市場の中で、健全な競争をすることで成長してきた。今後もそうあるべきであろう。日本船主協会としても、海運における保護主義の動きにアンテナを張り巡らし、国際海運関係諸団体と連携しながら、関係政府当局に対する意見表明や働きかけを継続的に行っていくことが重要である。

以上

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