JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2017年7月

オピニオン

2017年7月1日

市況予想 雑考

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

市況予想はあまりあてにならないものと思っているので、計画の前提としても事業方針の拠り所にはしないと決めている。それでも人に会えば「どうですか」などご意見を伺い、自分なりにも予想する。予想の仕方は人それぞれあるだろう。しかし、その「カン」どころは、だいたい同じだろうか。

 まず、市況「観」。過去に起こった出来事を観察し、関係性や法則性を探る。相関があると思う事柄については、その理由や背景を探り、同じような状況になったらまた同じことが起こるかな、など考える。例えば、先行と遅行の関係があると、先行指標を観察し、遅行の市況はどうなるかを経験則で予想する。ただし、最近の市場は、過去をよく勉強しているので、柳の下の二匹目のドジョウ狙いは年々難しくなっているような気がする。
 次に、市況「感」。考えることが多くなるとまとまらなくなる。そんなときは思い切って感覚に頼った方がいいときもあるだろう。情報を選ぶ、というより捨てて絞りこみ、残ったものをひとつずつ分析、その結果を全体感で大きく捉える。個別に「観」て、全体「感」でまとめ、イメージとして掴む。
 相場「観」と相場「感」も必要だろう。相場の変動から利益を得ることを純粋に目的とした売買も多い。こういった市場参加者の行動特性を分析し、イメージに加えておくことも、市場の変化を読む要素の一つとしてみておく。細かい情報がなくても、反応の振れ幅や、プラスかマイナスどちらに動いたかなどを確認しておくと、織り込み済みのポジションをとっていた参加者がどの程度いるのかなども、イメージできるときもある。
 最後に、市況「勘」と相場「勘」。世の中は過去を学んで、未来を正確に予測できれば勘などいらないだろう。しかし、アインシュタインが「神はサイコロを振らない」といって嫌った確率で説明される量子力学の世界や、物事が秩序ある状態から無秩序な状態に向かうように見えるエントロピー・熱力学など、不可逆性の性質を持つ世界観もある。
 そう考えていくと、世の中には、山師の勘のように、必ずしも論理的ではない直感的な勘に頼らざるを得ないこともあり得る訳で、こういった人々のヤマカンが、市況や相場のみならず、世界を動かしているのかもしれない。

 ところで、皆さんは物事を決めるとき、充分な情報や時間をもって判断させてもらえているだろうか。殆どの方が、情報や時間の制約があって、思うように行かない状況ではないだろうか。「どちらかを選びたいのに、今決められるのはこちらだけ」「情報がないが、今、やるかやらないかを判断しなければならない」といった、追い詰められることもあるだろう。ババ抜きで、残ったカードが二枚。どちらもジョーカーではないかと思う時もある。
 こういった公式化されたアルゴリズムでは答えが出ない、情報や条件が不完全な課題に直面した場合は、三つのカンを総動員し決めていけばいいと思う。人間には、記憶や経験の蓄積がある上、これからの行動や考えは細胞レベルでいうと熱力学の酵素反応、つまり想像を超える不可逆な世界観だ。前に進むのみ。科学で答えが出せなければ、よく考え行動することで、きっと枠にとらわれない、三枚目のカードが見えてくるはずだ。

以上

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保