JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2018年3月

オピニオン

2018年3月1日

小畠常任委員

ゆめぴりか・大吟醸・市場主義

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
小畠 徹

過日、TVを見ていたら「北海道産のお米“ゆめぴりか”の評価が高く、2018年も増産する」とのこと。昔、と言っても屯田兵の時代までさかのぼることなく、昭和の時代でも寒冷地の北海道でおいしいお米が大量にできるなどとは想像できませんでした。思えば、お米はいろいろなブランドができ確かにおいしくなった。さらに思えば、若いころは日本酒も特級酒とか一級酒とかラベルがついていたなと。今みたいな大吟醸とか生酒などなく、味も一律であったような。日本酒も格段とおいしくなりました。
 お米については食糧管理制度が緩和され、日本酒については日本酒級別制度が廃止され、それぞれの生産者が自由に市場で販売できるようになってから、品質が上がり売り上げも伸びるようになったと言えます。今では、お米も日本酒も輸出市場を見据えているとか。

 これらは民間主導・マーケット主導が技術を進歩させ生活を豊かにするという典型例でしょう。世界的に見ると、政府の規制は安全・衛生・環境などに限られるべきで、国家が生産や流通を管理することは効率が悪いことなのです。
 「計画経済」というのがもてはやされた時代もありました。確かに精緻な計画の下に国力を集中すればすばらしい結果をもたらすように思えましたが、結果は、誰も着ない洋服や故障だらけの自動車を大量に作るという散々なものだったようです。民間主導の市場経済に勝るものはないということです。

 人間の経済的行動においては「インセンティブ」と「トレードオフ」が重要と言われています。何かを始める、前に進むには「動機」が必要であり、何かを「得る」ためには何かを「捨てる」必要があるというわけです。そしてこれらの機能が十分に発揮できるのが市場(マーケット)です。良いものを作れば、あるいは良いサービスを提供すれば、シェアが上がり、無駄なこと効率の悪いことをやっていれば落ちる。それぞれが限られた資源を得意なものに集中して、効率よく全体のパイを増やしていくというシステムは市場経済が提供してくれるものです。

 最近こうした市場経済の発展に逆行するような動きがあります。一つは保護貿易的発想であり、他の一つは特定産業への国による直接支援の動きです。前者は、相手国との貿易赤字を問題にして高関税をかけたり自国産品を強制的に買わせたりする政策です。これがもたらすものは、国民に高価格・低品質の国産品を買わせることになり、生活レベルが低下します。昔、米国が日本からの電磁鋼板に高関税をかけたところ、米国で製造・生産していたドイツの重電メーカーは工場をカナダに移し、カナダで日本からの電磁鋼板を使って製造し、米国に製品輸出するようになったという例もありました。米国としては雇用まで減少したのですから最悪のケースだったかもしれません。
 後者の最近の例は、国が特定産業を支援するために低利で資金援助したり完工保証を出したりするケースでしょうか。近隣の造船業界であったそうです(まだ続いている?)。雇用確保という面が強いのでしょうが、国民の税金を破綻した産業・企業に使う正当な理由は乏しいと思います。合理化努力を行わず存続のためだけに資金を入れても、技術を含めた将来的な国際競争力がつくかは疑問です。

 もうじき新年度が始まります。保護貿易の考えが後退し、市場経済がいよいよ発展し、国際物流が増え、優れた日本製船舶がそれを担うことを祈念するところです。

以上

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保