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オピニオン

2018年4月1日

村上副会長

環境対策とどう向き合うか

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
村上 英三

「世界の気温は、2040年代までに1.5度上昇する」— 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がこのような報告書素案をまとめたと報道された。現在のペースだと、パリ協定が努力目標に掲げた気温抑制の上限にあと20数年で到達してしまう恐れがあることになる。
 海運は単位あたりの環境負荷が低い輸送手段だ。しかしながら地球規模で環境影響が深刻化するなか、世界の海をビジネスフィールドにする海運業界も環境対策を喫緊の課題として取り組まなければならない。

 目下の大きなテーマは、バラスト水規制や硫黄酸化物(SOx)の全海域排出規制だ。これらの導入時期が決まって以降、海運の環境規制が報道される機会は大きく増加した。社会からの理解を得ることは環境対策推進の力になるもので、報道により関心が高まることは海運業界にとって歓迎すべき流れだ。
 今年は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(GHG)の削減に向けた動きが本格化する。2019年に始まる燃料油消費実績報告制度の導入に向け、わが国でも3月、関係省令が公布された。また、この4月に開催される国際海事機関(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC)では、GHG削減戦略の採択が予定されている。地球温暖化は、異常気象のような身近な影響にとどまらず、海抜の低い国や地域には海面上昇という存亡の危機をももたらすもので、環境問題の中でも特に重要度の高い課題といえる。

 これら環境対策を進める上では、「コストの抑制」、「環境対応機器や燃料の供給能力」、「技術開発」といった課題を克服しなければならない。環境対策には迅速な取組みが求められるが、こういった課題が時には対応の策定や施行を遅らせる要因となる。
 SOx規制対応では、スクラバー(脱硫装置)の設置やLNG等への燃料転換には多額のコストを要する一方、低硫黄燃料油の価格や供給動向は不透明だ。このため複数の対応手段の中からの選択が進まず、需要見極めが難しいことから、機器も燃料油も安定的な供給体制が確立されにくい状況にある。また、バラスト水規制では、装置供給の不足や造船所の対応能力への懸念で、設置期間が3年間から5年間に延長された。
 コストは大きな課題だが、その負担については関係者が叡智を集めて検討し、受益者の間で公平にコストを分担して遅滞なく環境対策を進めていかなくてはならない。コスト負担を避けるためだけに施策の導入を遅らせようとしたり、あるいは規制の施行後は抜け穴を探す動きが出ることも懸念されるが、規制の実効性・公平性いずれの観点からも認められるものではない。
 技術課題の解決では日本のリードが期待される。環境への意識と優れた対応技術は、日本の海事クラスターの強みだ。環境規制をコスト増加という負の側面だけで捉えると積極的な対応は難しいが、ここはチャンスと捉えるべきだろう。日本の海事クラスターがひとつの方向性を持って環境対応技術を磨けば、強い競争力を生むことができる。競争力を持つことで、優れた環境技術が普及する。それによって環境の保全が促進される。このような循環が生まれれば申し分ない。

 環境問題は文明の進歩や経済成長の代償と言うべきものであり、人類社会が発展を続ける限り、環境対策は避けて通れない。海運も当然その中にある。環境対策を進めるためにまず必要な要件は当事者の理解だ。世界中の海運関係者が環境対策の必要性を理解することが、グローバルな海運の環境対策を進めるための重要なポイントとなるだろう。

以上

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