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オピニオン

2018年7月1日

當舍常任委員

夢百考

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

飯野海運の創業は19世紀末の1899年。その当時描かれた21世紀の想像図『En L’An 2000』では空飛ぶ車に空飛ぶ人など空を自由に飛ぶことが大きな夢として描かれている。空を飛ぶことで人、モノを迅速に移動させることに大きな期待を寄せていたのだろう。では、現実の21世紀はどうなったのだと思い、周りを見渡すと残念ながら空飛ぶ車・人は見当たらない。その代わりに、スマートフォンを片手に家族、友人と連絡を行う人々、そしてニュースを見ると車の自動運転や人工知能(AI)など、情報伝達・情報処理に関するものが多いと改めて気付かされる。何を今更といわれるだろうが、情報に対する比重が大きく増しているのだ。ためしに「飯野海運」とネット上で検索すると、HPも含めてあらゆる情報が世間に溢れ出している。世界中がネットを介してつながり、人々は、いの一番にネット上の情報にアクセスする。その流れは止めることはできない、もちろん業務も情報化されていく。そして海運業特有の情報化といえば、やはり船舶の自動運航となるだろう。


国土交通省の資料によると船舶の自動運航とは「情報通信技術(ICT)、データ解析技術、各種センサ等を活用し、運航に伴う各種タスク(外部状況認識、操船、機関制御など)を高度に自動化又は遠隔化した船舶及びその運航システム」となっている。一般的な外航船には20名強の船員が乗り、日々安全運航のため様々な船務を行っている。それを自動化するとなると、車の自動運転と比べてもより複雑な処理が必要となるし、国際条約を含む様々な規則・基準を整理する必要もある。さらには、各種機器にとって大敵の塩・錆との戦いもある。船舶の完全な自動運航実現には難題が多くあり、その解決には時間を要するだろう。自動化のための新技術はあくまで船員のサポート役に徹することになるのか、AIがメインで船員がサポートに回ることになるのか。我々海運会社には海上安全確保という永遠の課題が課せられている。その課題克服のため船務や陸上からの支援をより確実かつ効率的にする技術革新に注目したい。


では、どうような技術革新が実現するだろうか。“昔”の人間の誰も“今”を予測できなかったし、もちろん“今”を生きる我々も“将来”を正確に予測する事は不可能である。それは船舶の自動運航にもあてはまる。我々に出来ることは将来に向けて安全運航という目標へのロードマップを示しその道を歩み続けることだけである。昔の人々の空への憧れは、形を変えて旅客機やドローンで実現し、想像を超え宇宙にまでいけるようになった。同じように、船舶の自動運航への取り組みも皆が同じ夢を持ち、あきらめないことでいずれ達成されるはずだ。そして夢を超える何かが生まれる可能性すらある。自動運航を超えるものは何か、興味があるところである。それは今の技術の応用か、はたまた誰も夢想だにしなかった新しい技術を使ったものか、“将来”だけが答えを知っているのだ。


船舶の自動運航の実現には、海事産業の総合力がものを言う。海運・造船・舶用工業が強固に結びつく海事クラスターを有する日本が有利に違いない。官民を上げた取り組みの成果に期待したい。

以上

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