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オピニオン

2018年11月1日

赤峯副会長

「Kapitan Gregorio Oca」

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
赤峯 浩一

「0.8%」、国際船員労務協会(IMMAJ)が扱う日本外航商船隊の9割に相当する約2,250隻の外国籍船に乗組む日本人船員の比率である。日本籍船を加えても、1.7%に過ぎず、フィリピン人船員が3/4を占めている。その養成学校として、AMOSUP(フィリピンの最大の船員組合)が1998年に設立したMAAP(アジア・太平洋海事大学校)があり、その敷地内に2009年JSU-IMMAJ Campusを建設し日本商船隊にCADET(職員候補生)として送りだしてきている。

去る8月8-9日、清水市にある三保造船所において、主としてこのフィリピン人CADET用となる練習船の進水式が、日比労使代表出席の下、最近の外航船では珍しい「船台進水」(造船台から進水台を滑り水面に入水)により挙行された。AMOSUP創始者の名を由来とし、「Kapitan Gregorio Oca」と命名された。全長約80m、総トン数1,750トン、2,000馬力、速力13.8ノット、航行区域は遠洋、航続距離12,000マイル、定員は実習生108名を含め138名である。本年末引き渡しで、来年1月下旬には晴海でのお披露目を予定している。これまで使用されていた“Kapitan Felix Oca”(旧青雲丸)の代船であるが、おそらく、練習船の建造を労使(全日本海員組合と国際船員労務協会)が共同で行うというのは世界初のことであろう。日本商船隊に配乗されるフィリピン人船員の質をさらに高め、安全運航に寄与出来ることを期待している。また、外航船員を目指す日本人の若者が、短期間でも一緒に乗船する機会が作れればと検討中である。

さて、話題は変わるのだが、毎年、MAAPの入学式に参列した後、新入生の質問を受ける場面があり、本年初めて参加したのだが、「日本の大手海運会社は自律運航船のプロジェクトを進めているが、われわれの将来は大丈夫か?」という質問があって、正直驚かされた。

また、日本船長協会の会報のコラム「IFSMA便り—「海上自律運航船」に関する船員の意識調査—」で外国人二等航海士のこんなコメントが紹介されていた。「自動化は未来だ。未来は誰も止められない。未来の一部にならなければならない。現在の仕事はなくなるであろう。しかし、新しい仕事が生まれてくる。そこに焦点を当てよう。過去にすがるな。新しい発展に適応し、その構成員となるべきだ。」

最近、日本の総人口は1億2,642万人、70歳以上が20.7%、65歳以上が28.1%と総務省が公表した。また、同省の統計によれば、日本の人口は2010年の約1億2,800万人をピークに減少、2050年には約8,100万人、内、65歳以上が40%を超えるとある。高齢化社会により労働人口が減少するのは明らかである。

明治時代初め、海外保険会社が遠洋航路において日本人船機長配乗船に対する保険の引受けを拒否していたため、三菱商船学校が設立され、欧米人から技術を学び高級船員全員が日本人となるのに数十年。大戦を経験しゼロから出発し復活するもプラザ合意から30年余で冒頭の現状。次の数十年後は何が待っているのだろうか?

日本人やこの練習船で学ぶフィリピン人船員だけでなく、世界中の船員社会において、「AI」「自律運航船」は避けて通れない問題になりつつある。日本の国内物流を支え「カボタージュ」「船員問題不足」を抱える日本の内航業界でも例外ではないのかも知れない。

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