JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2018年12月

オピニオン

2018年12月1日

磯田副会長

「母校にて」

日本船主協会 副会長
磯田 裕治

海運への理解度が低下していった過去の経緯はどうあれ、海洋国家である他でもない日本において「海運の重要性に関する認知度の向上」を図ることから再スタートしなければならないというのも、当業界にとっては何とも複雑な想いのする現実である。一方、政官民挙げての取り組みにより、ともかく学習指導要領が海事・海洋を取り扱うべく改訂され、各地の小中学校から問い合わせが急増しているなど、ここにきて追い風も吹き始めている。
 そんな中、ひょんな偶然からつい先日、母校でかわいい後輩たちと交流する機会を得た。

広島大学附属三原学校園で「海から見た社会科」をテーマにユニークな授業を展開されている村上忠君先生や、「国際的な資質育成」の観点からも海事教育を全面的にご支援頂いている木村博一同学校園長(広島大学大学院教育研究科教授)とは、日本船主協会から教材やデータを提供するのみならずそれらを使った授業を参観させて頂く等、双方向の連携を深めてきた。そして今回のお話。「母校で子供たちに話をしてくれませんか」。

小学生(3年生~6年生)と中学生(1年生~3年生)に分けての2部制。何をどう話せばいいか、特に小学生に対しては。「船長、母校(港)に帰る」ならそれだけで眩い絵になるが…。職員室が苦手の正真正銘悪ガキだった昔の自分を思い浮かべると、「四面を海に囲まれ資源の乏しい日本は…」と始められてもリアリティやシズル感を覚えるとは思えない。

直前まで悩みに悩んだ末、結局、先ずは小学生のころ自分が抱いていた外国への夢とか憧れをその理由とともに素直に披露し、次に、長じてのち海運会社に身を置くこととなり 果たしてその会社生活のうち8年間を海外3か国で過ごしたこと、それやこれやでこれまで訪れた国は41か国に上り間もなくジブチ共和国が加わって42か国になることなどをその時々のエピソードや言語も交えて語り、最後に、ではどうして海運と外国がそんなに深く関わっているのか、そもそも「海運」って?、という話に繋げていくことにした。

話を終え多くの疑問・質問をもらった。時間切れで全部を聞けなかったのがとても残念だ:
 「大きな船がどうやって海に浮くのですか」、「外国から日本に来るのに何日かかりますか」、「ゾウを船で運ぶという話を聞きました。動物はどんな船で運ばれるのですか。ちゃんとお世話をする人はいるんですか」といった素朴な疑問はやはり小学3、4年生から。
 中学生の「どうやったら海運会社に入れるのですか」、「仕事のやりがいや楽しいと感じるのはどういうところですか」との質問には思わず本人の本気度を確かめたくなる。
 「船には何人乗っていますか。人手不足の問題はありますか。外国人船員の出身地はどこですか」、「AIが発達する中で、船も自動車と同じように自動運転になると思うのですが」。事情通は小学生にも中学生にもいた。
 中には即答できない質問も。「たくさん輸入しなければいけませんが、1日に何隻日本に入ってきていて何隻外国に向かって出て行っているのですか」。

最後の最後に、あとで先生方から各クラスで補足して頂くことをお願いした上で、貿易立国である日本にとって自由貿易はその存立の大前提であること、従って最近の保護主義的な動きはたいへん心配であること、更に貿易のみならず例えば難民問題等に見られる不寛容な態度が各地に広がっていることに触れ、みんなにはしっかりと世界に目を向けて寛容と相互理解の精神を育んで欲しい旨申し添えた。そうして空のかなた海の向こうの「世界」に想いを馳せる時、その世界を網羅する「海運」にも同時に思いを巡らせて下さいね、とも。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保