JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2019年3月

オピニオン

2019年3月1日

谷水常任委員

日中雑感 白酒とともに

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
谷水 一雄

NSユナイテッド海運の源流は日本製鐵であるが、歴史をたどるともう一つの源流・大連汽船につながる。その名の通り中国との貿易を担った会社で満鉄の関係会社である。それ以来当社は日中貿易への関わりが長く、現在も多くの鋼材を輸出している。

先日、その鋼材受け入れ港の一つである上海を訪問した。長年取引のある揚子江と黄浦江にかけて広がる大きなターミナルの若い新社長と面談し、今後の展望を尋ねたところ、これからは海外進出だと。彼は一帯一路戦略に沿って港湾を建設し中国製品を輸出していく壮大なミッションを白酒乾杯と共に熱く語ってくれ、時の流れを実感した。

私自身、初めての中国訪問は、天安門後の1991年。改革開放が動き始め皆が将来に希望を持ち交易会など輸出に力を入れていた頃であり、多くの鉱物資源を視察した。一方で毛沢東や文革の余韻も残り、暮らしぶりはまだ古い中国、慣れないトイレに苦労し、寝台列車の硬座にも乗り、初めての白酒乾杯・日中友好の歓待にいたく酔ったのもこの時である。ご存じのとおり、白酒は乾杯することで胸襟を開き友人をつくることができるという(二日酔いの苦い思い出もたくさんありますが)。

日中貿易は、以前は日本から中国へ鉄鋼製品を輸出し、中国から日本へ石油や石炭を輸出するという相互依存の補完関係であった。資源では大慶原油の先細りから石炭が中心となった。LT石炭取引は1978年に始まったが、2000年代に入って空前の中国炭輸出ブームとなり、白酒をたくさん飲めば石炭が出てくる友好の饗宴続きに皆が酔いしれた。ただその洪水のような輸出のあおりで気がつけば肝心の豪州・カナダの炭鉱が再編淘汰される事態につながったのは想定外だった。

2003年に悲願のWTO加盟を祝った。石炭関係の知人が、中国もこれで一等国、これからは世界市場で価格も含め責任ある行動をとらなければと話していたのを覚えている。ただその後は文明の勃興のごとき工業化により、逆に資源の一大輸入国になり、この間の中国の物量の動きや国策、またそれによる市場の変容が資源および海運マーケットに与えたインパクトはご存じの通りで、皆がしらふに戻ったものである。

現在の中国との関係は、もはや貿易で補完し合う関係ではなく、同業として競合する関係に急速に展開してきている。鉄鋼では同じ原料を取り合い同じ鉄鋼マーケットで競争するライバルである。造船や海運では共に海洋立国として韓国も含め今後、ますますつばぜり合いが増していく。改革開放から40年。習近平は鄧小平時代に終わりをつげ「中国製造2025年」そして「中国の夢」を宣言した。前述の知人は党の規律方針により最近は白酒自粛、昔はよかったと愚痴が多くなった。その白酒も国内接待需要が激減し現在は輸出市場を開拓中と聞く。

まさに劇的な変化の中国であるが、庶民の生活も変わった。中国映画に『山河故人』というのがあり、これは中国の経済成長が社会と庶民に与えた変容を一人の女性の人生でつづる大河エレジーである。あの躍動感あるディスコミュージック『Go West』が2000年山西省の田舎街に響くオープニングが中国の夜明けと鼓動を伝え、年月を経て同じ曲がラストで彼女のその後の人生の悔恨とノスタルジーを伝えるという物語である。

現在、米中関係がかまびすしい。昨年ペンス副大統領の対中発言もあった。中国は自力更生「第二の長征」で応じる気配。日中関係は足下こそ改善してはいるが、米中の間で距離感が難しい。先日報道で日本もいよいよ空母を整備するという。連載中の劇画『空母いぶき』ではすでに日本初の空母とF35が中国と交戦中であり妙に生々しい。こんな事態に将来進んでいくとは思わないが、世界の秩序が揺らぎつつありもどかしい。日中関係の基本は隣国として「一衣帯水」ではなかったのか。海運も貿易もこのアジアの海の平和が大前提。海運が万が一止まると海洋立国日本は大変。もう一度友好の盃白酒交えじっくり語り合えないものだろうか。

※LT石炭取引:日中長期貿易取り決め(Japan-China Long-Term Trade Agreement)における石炭の取り引き

以上

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保