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オピニオン

2019年5月1日

内藤副会長

造船業界における
公正な市場環境を求める

日本船主協会 副会長
日本郵船 代表取締役社長
内藤 忠顕

世界の新造船は、近年、中国・韓国・日本の3か国での建造が9割以上を占めています。リーマンショック以前に急拡大し、明らかに過剰となっている建造能力の適正化が急務と叫ばれながら、事態の改善が進まぬまま今日に至っています。

OECD(経済協力開発機構)造船部会においても、造船市場における公正な競争条件の確保と過剰建造能力問題の早期解消を目的として、造船業における国際規律の策定に向けた議論がなされています。OECDは、中国・韓国に対しても、この議論への参加を呼び掛けています。2018年4月16日には、日中ハイレベル経済対話において石井国土交通大臣より造船業における供給能力過剰問題についての言及がなされ、これに対し中国側より「ビジネス環境の整備について、中国は国際義務の履行を重視している」旨の回答が有りました。更に5月9日には、日中韓サミットにおいて安倍総理が同様にこの問題について言及した結果、「産業部門における過剰生産能力の悪影響を認識しつつ、この問題に対処するために共に取り組む」との内容が同サミットの共同宣言に盛り込まれました。

しかしながら、造船分野における世界的な供給能力過剰問題が長期化する中、韓国政府が政府系金融機関を通じ、自国造船業の受注拡大のための大規模な公的支援を行っていることは、皆様も良くご存知かと思います。具体的には、自国において経営難に陥った特定の造船所を救済するための大規模且つ直接的な金融支援や造船所の赤字受注を容認するような前受金返還保証の発給といった事例が挙げられます。

わが国は、こうした公的助成は市場を歪曲し供給能力過剰問題の早期解決を阻害する恐れがあるものとして、様々なルートを通じて、度々その問題を指摘してきましたが、残念ながら韓国側に是正の動きが見られませんでした。このため、国土交通省は2018年10月24日に日韓での局長級協議を行い、改めて公的助成の早期撤廃を求めました。更にこの問題の解決を図るため、12月19日開催の韓国の自国造船業に対する公的助成についてのWTO協定に基づく二国間協議の中で、日本政府は、わが国が問題とする措置の詳細について事実関係を聴取するとともに、これらの措置は市場歪曲的であり、WTO補助金協定に違反する疑いが強いとの考えを改めて伝え、措置の是正を求めています。こうしたWTO紛争解決手続に則り、本問題の早期是正が図られるよう期待したいところですが、果たしてどの程度の進展が得られるのか、事態は予断を許しません。

こうした韓国政府の自国造船業への支援が、造船市場における公正な競争条件を歪曲し、世界の造船業全体に大きな影響を及ぼしていることは明らかです。政府系金融機関による様々な助成策により、本来は市場原理によって淘汰されるべき過剰な造船設備をいたずらに延命させることで市場競争を歪曲することは、世界の造船業に多大な損失をもたらすのみならず、我々海運業をはじめとした海事産業全般の健全な発展を阻害するものであると、大いなる危惧を抱かずにはいられません。

外航海運業はグローバルな市場での競争に晒されているがゆえに、公正な市場環境の確保が求められる事は論を俟ちません。真に公正な市場環境を一日も早く取り戻せるよう、官民一体となり継続的に働き掛けていくことが必要不可欠であり、事態の改善を強く希望しています。

以上

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