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オピニオン

2019年7月1日

當舍常任委員

令和の時代、環境への取り組み

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

2019年になって半年が経過した。今年前年の最大の出来事はやはり新しい天皇陛下の即位、そして改元であろう。平成から令和へ、新しい時代が始まった。今から30年前の1989年に海運業界が置かれていた状況を振り返ると、プラザ合意に端を発した急速な円高と戦っていた真っ只中であった。為替との闘いは過去、海運業界が経験したことのない、全く新しい種類の荒波であった。それでは、今の海運業界が直面している状況はどうか。それは環境、特にSOx(硫黄酸化物)、に関する規制への対応という荒波である。この荒波もまた、われわれが経験したことがない新たな問題である。そして海運という一つの業界にとどまらず海上物流を利用しているあらゆる産業に、最終的には世界中の消費者に影響を与えるという新しい特徴がある。

国際分業体制が進み、海上物流の重要性はますます高まっている。そういった大きな流れに加えて、新しい流れとして環境に配慮し、持続的な社会を作らねばならないという機運が高まっている。われわれが社会の構成要員として環境に配慮することは当然である。二酸化炭素の構成元素である炭素(C)など地球上の各元素は地中の奥深くで静的な状態にあるか、地中から飛び出し大気中や水中で動的に循環するかのどちらかの状態で存在する。新たな規制の対象となっている硫黄(S)はタンパク質に含まれるなど生物にとって必要不可欠な元素だ。一方で大気中に硫黄酸化物として放出されると最終的に酸性雨の原因となる硫酸となり生態系に悪影響を与える。船舶燃料として重油を燃焼することは重油に含まれている硫黄分を静的な状態から動的な状態に変えることであり、すべての船舶がその媒介者となる。

媒介者たる船舶は、環境に配慮して硫黄分の少ない各種の船舶燃料の燃焼に切り替えを求められている。現時点の候補としては低硫黄重油、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、メタノール、そして既存の重油とスクラバーの組み合わせなどだろう。およそ100年前に船舶の燃料が石炭から重油に変わったことと同じ動きが、いま起きている。ただ、いずれの燃料に切り替えるにしても、既存の重油と比べるとコストが高い、またスクラバーの設置には一隻あたり億単位での投資が必要となる。そしてこのコスト増は海運業界だけで負担できる程度を超えている。海運業界は国際分業体制を支える世界的な物の流れを担うという使命と環境に今まで以上に配慮して持続的な社会を作るという二つの大きな理念の間で板挟みになっている状態だ。

現在、世界中の海運会社は各荷主に船舶燃料の切り替えに関する費用の負担をお願いしているところだ。荷主は先にいる顧客に船舶燃料の切り替えに関する費用の負担を、そしてその顧客は最終的には私たちを含めた消費者に費用負担を理解してもらわねばならない。サプライチェーンの根っこに海上物流があるがゆえに、船舶燃料の切り替えに関する費用はあらゆる会社・ヒトに影響を与える。もちろん、荷主や消費者は最終的には環境を守るために必要なコストとして理解をしてくれるだろう。

しかし、この規制が始まる2020年1月まで残された時間は短い。われわれは、この新しい規制についてすべての荷主に理解いただくべく丁寧・実直に繰り返し説明を行うしかないのだ。

以上

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