JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2019年11月

オピニオン

2019年11月1日

赤嶺副会長

FUTURE-2040

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
赤峯 浩一

「月の石」。万博と聞けば、これをひと目見ようと4時間以上パビリオンの前に並んだ記憶が鮮明に蘇る。1964年の東京オリンピックに続いて、わが国の高度経済成長期の集大成として、大阪の千里丘陵で開催された「EXPO ’70」は、多くの人々に強い感銘とともに次世代の夢と希望を与えた。来場者数は6421万人、あの歴史的な祭典から約半世紀のときを経て、2025年に再び大阪での万博開催が決定した。日本国際博覧会協会の石毛博行事務総長は記者のインタビューに対し、会場となる大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」までの交通手段として、電車やバスによる陸路とともに、船舶による海上輸送について官民で本格検討に入る考えを示した。

25年万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。人工知能(AI)や仮想現実(VR)などを体験できる「最先端技術の実験場」にするというコンセプトから、この海路に無人運航船が導入される可能性を示唆させる。近年、深刻化している人手不足などの社会的な課題解決への糸口として期待が高まるとともに、わが国の優れた技術力を世界に発信できる大きなチャンスでもある。

本年4月、日本財団は「無人運航船がつくる日本の未来-FUTURE2040」と題し、無人運航船が20年後にもたらす日本経済・社会構造の変化を分析した報告書を発表し、海運業界のみならず物流業界全体に大きな反響を呼んだ。

ところで、自動運航船に関する技術は、近年目覚ましい発展を遂げている分野である。国土交通省が2018年6月に発表した「自動運航船実用化に向けたロードマップ」では、万博が開催される2025年を実用化に向けたベンチマークとして掲げ、現在は、各企業団体が自動操船などの基礎技術を構築し実証実験を行う段階に差し掛かっている。わが国の自動運航船に係る研究開発の特徴として、船社・造船所・舶用機器メーカーが一丸となって利用者が抱える課題を補完する技術の練磨に努めていることが挙げられ、船上の乗組員を支援するレベルでの自動運航船は2025年を待たずして実現すると考えられている。

一方、その先を目指そうとするならば、これまで人間が介在することにより安全を担保していた認知・判断・操作の各過程にさらなる技術革新や安全性に対する社会的な理解等、様々なハードルを乗り越えなければならず、わが国の柔軟な発想力と業界の枠組みを超えた団結力が求められる。

今般、この機運を醸成すべく、日本財団はFUTURE-2040に向けて、「無人運航船の実証実験にかかる技術開発支援プログラム」を立ち上げた。世界に先駆けて無人運航の実証実験を成功させるための技術開発を支援するプロジェクトであり、正に、25年万博に向けオールジャパンでのチャレンジをサポートするものである。

携帯電話、電波時計、温水洗浄便座、電気自動車、モノレール、動く歩道、ファミリーレストラン、ファストフード、缶コーヒー、これらは、半世紀前の万博で試作段階として展示された商品や設備だったが、現在では殆どが実用化されている。

未来社会は人類の努力の積み重ねにより形成される。再び、大阪で開催されようとしている万博が、「EXPO ’70」が見せてくれたように、我々の想像の域を超えた半世紀後の未来社会を生み出すきっかけとなることを期待したい。

以上

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保