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オピニオン

2020年3月1日

谷水常任委員

日中雑感 日本の矜持

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
谷水 一雄

日本はものづくりを自負してきたが、「ものづくり白書」を読むと既に製造業の国でも輸出立国でもなく、消費が中心の国だとわかる。GDPに占める製造業の比率は米国11%、中国40%、日本が22%。これは国の発展段階によって当たり前の傾向であり、悪いことではない。蛙飛びで先端情報通信産業へ構造転換を進める中国と先行する米国が対立しているのはご存知の通り、ただここに日本が絡まないことは残念である。そして日本のものづくりも正念場である。

そんな日本の輸出品目の推移を見ると、常にベスト5に入るのが鉄鋼製品であり、又その競争力ある素材を活かした製造産業、かつては造船や家電、そして現在は自動車関連や各種機械類が上位を占めている。この輸出構造は、かつては多くの貿易黒字を生み出したが、家電他が衰退するなど徐々に浸食され今に至っている。現在では米中貿易摩擦や中国製造業の拡大から、その残った主要輸出産業も影響を受けつつあり、自動車の将来も安泰ではないと言われている。結果、輸入する原燃料価格によっては貿易赤字になるなど今昔の感が漂う。

これは何を意味するのか。世界経済は今後も伸びていくが、日本の存在感が下がり、世界の輸出入に占める日本のウエイトが下がる。つまり産業の弱体化やパラダイムシフトにより、世界貿易は伸びても、日本発着のカーゴは減少していく可能性が高く、我々海運にとって厳しい環境が予想される。

鉄に代表される素材産業は、これまで新興国の成長に伴い基礎素材を世界に供給してきたが、この構図もいよいよ正念場にきている。輸入国が最新鋭設備を導入し輸入代替を図り、輸出志向に転じつつある。

更に、中国による最新鋭臨海製鉄所の建設は脅威である。今後この能力が過剰となり、製品が輸出されてくると、この低コスト構造が市場のベンチマークとして価格支配力を持つと思われる。中国国内でも宝武鋼鉄集団はそんな厳しい低収益時代を見越し、再編大型化により競争力強化を急いでいる。先だって日本製鉄が生産体制の構造改革に向けて大きな舵をとったのも同じ危機感による。製鉄所の数や規模からの歴史的転換であろう。

そんな中国に押される構図は造船も同じである。中国は一帯一路の下で陸海空のインフラ強化をすすめており、造船は戦略的産業との位置づけで、着々と再編大型化が進展中である。また足元ではその低船価の前に日本の造船は劣位に立たされている。今後中国の新造船価格が市場のベンチマークになっていくことが予想され、これも鉄と同じである。中国の産業政策で鉄や造船、鉄道は成功例と言われており、国家主導が馴染むのだろう。思えば昔の日本もそうであった。

2020年代、米国は先端技術で中国と対峙、一方日本は図らずも鉄や造船といった伝統的産業で生き残りをかけて中国と対峙していく。これまでも円高やリーマンなど厳しい時代は何度もあったが、今回は本質的なところが違う気がする。チャイナウエーブ、歴史のうねりのようなものを感じる。おそらく個社対応では限界があるだろう。日本の設備は残念ながら老朽化、どうやって生産性を向上させ競争力を再構築していくか課題は多い。ここはいよいよ皆がまとまって日本の矜持を示す時でもある。

これまで日本の海運の評価は日本の造船のおかげであり大変お世話になってきた。その発展のため我々も協力し一緒にワークしていきたい。日本の船で世界で運ぶ。これを続けていくためには、鉄鋼・造船・海運と全ての参加者が一緒に産業発展に向けて頑張らなければならない。オールジャパンの下でのあらたな船づくりに向けて。

以上

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