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オピニオン

2020年4月1日

明珍副会長

100年ぶりのエネルギー転換

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
明珍 幸一

海運は今、100年ぶりのエネルギー転換を迎えています。船の推進力に風のエネルギーを使い始めたのは紀元前2500年のエジプトでした。風力の時代は長く、コロンブスは帆船で大西洋を横断し、ペリーの蒸気船は外洋では帆走していました。船の燃料が内燃機関を使う重油に切り換わったのは約100年前、20世紀初頭のことです。そして今、GHG(温室効果ガス)の排出削減に向けて、重油からLNGなど新たな燃料への移行が始まりました。

GHGの削減は社会的課題であり、世界のインフラを支え、自然を利用する海運にとっても重要なテーマです。このような大きな課題に対して一企業が持つ力は限られますが、業界が一丸となれば大きな力になることを、私たちは今年1月のSOxグローバル規制対応で経験しました。10万隻におよぶ世界の船が排出するSOx(硫黄酸化物)を一時期に7分の1まで減らす大プロジェクトを実現できたのは、お客様をはじめとする多くの関係者の理解のもと、目標に向けて海陸を挙げて様々な海事産業関係者が力を尽くしたからに他なりません。

GHG削減には様々な方策がありますが、既存の技術のなかで「これひとつで良い」という解決策はなく、ハード・ソフト双方の技術を組み合わせることが不可欠です。その選択肢のひとつが燃料の転換です。中でもLNGは陸上で既に利用が進み、生産や供給も比較的安定した燃料です。本船の建造・改修コストや船舶への供給体制など、克服すべき課題も少なくありませんが、今後利用に向けた動きは拡大していくと考えています。日本でも今年後半にLNGバンカリング事業の開始やLNG焚き自動車船の竣工が予定されており、海運のLNG燃料利用が進む年になりそうです。

ただ、LNG燃料化で減らせるGHGはおおよそ25%で、運航効率40%改善というIMO2030年目標の達成には補完的な手立て、いわば「LNG+(プラス)」が必要です。そのひとつが風力で、川崎汽船では航空機メーカーの飛行制御技術を利用したカイトシステムを大型バルク船などに搭載することで、さらに20%程度のGHGを削減する計画を立てています。また、AIやビッグデータを活用した最適航路での運航や、輸送需要に応じた最適な配船の実現など、デジタル技術の活用によるGHGの削減も期待されます。

日本の海事産業は、品質において常に世界をリードしてきました。従来の知見を生かしながら、航空のような他産業の技術や、AI・ビッグデータといったデジタル技術を取り込むことによって、環境対応は日本の海事産業に付加価値を与え競争力を高めるチャンスとも言えます。

LNG燃料などによる低炭素化とともに、その先の脱炭素に向けた研究も進められています。IMOでは2050年までにGHG排出量半減を目標としていますが、これは荷量増加も考慮すると8割の燃費改善を要する大きなチャレンジです。このターゲットに向けては水素・アンモニアなどの新燃料や、CO2を回収し燃料として再利用するカーボンリサイクルなどの研究が進められており、海運の更なる進化が期待されるところです。

未来の船がコンピューターの頭脳を持ち、水素を燃料にカイトを揚げて大海原を進む姿を目にしたら、古代エジプト人も目を丸くするのではないでしょうか。

以上

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