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オピニオン

2020年5月1日

池田副会長

「今、思うこと – – 新型コロナ
ウイルス肺炎の終息を願って」

日本船主協会 副会長
商船三井 代表取締役社長
池田 潤一郎

新型コロナウイルスが猛威を振るっている。もちろん世界経済、そして海事産業にも大きな影響が出てきている。エコノミストによってはリーマンショック同等、あるいはもっと悪くなるという予想もあり先行きが大変懸念される。

[この原稿を書いているのは3月中旬であり、日々刻々状況が変化しているが、皆様の目に触れる頃には少しでも収まっていることを願いながら書いている。]

とはいえすべての危機と同様にこのコロナショックもいずれかは終息するだろう。その後に展開する世の中はどうなっているだろうか。

一つめは各企業の日々の実務への影響。
 われわれ海運業においては、陸上の事務所での就業体制への影響、各船の運航への影響、健康管理や乗下船手配などの乗組員への影響など様々な影響があるが、これらに対し各国、各企業そして各人が伝染病の拡がりを抑えるべく知恵を出しながら様々な対処を展開してくれており、頼もしく感じている。

海運業に限らず、この機にわが国の多くの企業で展開されているのはテレワーク、在宅勤務であるが、これがもたらす変化には相当なものがあるのではないか。ひとつには業務のプロセスよりも結果を重視する成果主義が浸透していく契機になるかもしれない。

満員電車で出勤し勤務時間中はひたすら机にしがみつくというスタイルがわが国においてはスタンダードだったものが最近はより効率的、健康的な仕事のやり方に変化を遂げてきた。これがテレワークとなると、どういう仕事の仕方をしているのかというプロセスは、もう評価しようとしてもマネージャーからは見えないものになってしまう。結局、各人が何をアウトプットするかが益々ハイライトされてくるのではないか。

もっとも成果でしか評価をしないということになると、人によっては過剰労働に陥る危険性もあるかもしれない。自分でもやってみたが自宅では気が散るというよりむしろ「作業」に没頭してしまう環境があり、しらずしらずPCの画面に食い入っている自分を発見する。成果といっても他の人との係り合いによって育まれる創造性を犠牲にしていては本末転倒でもある。

二つめは世界の貿易への影響。

2003年のSARS発生の際と比べ、世界の工場としての中国の存在感は益々大きくなっている。2003年当時の中国発着の海上輸送貨物量は約8億トン。これが2018年には約32億トンと、わずか15年の間に約4倍増である。

SARSの時より中国での災厄発生の世界経済への影響がずっと大きくなっていると肌感覚だけでも十分感じられるが、実際に貿易量がこれだけ増えているのだ。

ひるがえって考えれば、これだけの海上輸送量の急増を支えてきたのは勿論われら海運業。貿易の急増に応え、水を差すことなく円滑に支える海運業がなければそもそも世界経済が中国に依存する状況にはならなかったと言える。

コロナ後の世界はグローバリゼーションが後退し、経済のブロック化が進むという説もあるが、私としては世界貿易のダイナミズムとそれが世界の豊かさに貢献する力は軽視できないと考えている。海運業はそれを支えるし、その後も世界経済のインフラとしての海運の役割が小さくなることはないだろう。

ましてや今コロナの恐怖におびえて外出もままならない世界の人々の生活を支えているのは海運によって運ばれる様々な生活必需品、物資、エネルギーだ。

海運によって人々の毎日の営みが支えられている。その使命感を胸に海事産業に従事するわれわれが頑張らねばならないと感じるのはあながちうぬぼれだけではあるまい。

以上

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