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オピニオン

2020年6月1日

小野理事長

コロナウイルスがもたらしたもの

日本船主協会 理事長
小野 芳清

この原稿を書いている5月上旬は、世界中がコロナウイルスと一生懸命戦っている真っ最中です。世界的な感染症問題は過去にも繰り返し起こりましたが、今回の問題は、広義の近代社会がほぼ完成形に近づいた時代に起こったという意味では、“unprecedented”かもしれません。

世界の海運産業界においても、あまり前例のない問題が噴出しました。例えば、世界規模での言わばロックダウンにより、「船員交代に多大なる支障が生じた。」「新造船のデリバリーや中古船の解撤が上手くいかない。」等々、また国内では大部分の海運会社の従業員が「自宅勤務を強いられた。」等、海運ビジネスの大前提が揺らぐ事態となりました。当然のことながら、次々に起こる問題は片っ端から片付ける努力をしていかなければなりません。国土交通省等の関係者の御協力もあり、いくつかの問題は完璧ではないまでも御陰様で一応の解決を見ました。

一方で、今回の経験を踏まえてウイルス問題収束後に何をすべきか考えておく必要があることも見えてきました。大小取り混ぜていろいろなことがありますが、その中でも難題と思われる論点をいくつか列挙してみたいと思います。


(1) 日本商船隊の船員はその約7割をフィリピン人が占めているが、このような一国集中状態は是か非か?
(2) 航行の安全の観点をも含めた船員に対する医療体制をどうするか?
(3) 危機対応への国内的・国際的な弱点があぶり出されたが、これをどうするか?
(4) 今回の危機で広がった海運サービスの重要性に対する認識を今後われわれはどのように活かしていくべきか?

特に(1)については、過度の一国集中が安全保障上好ましくないのは論を俟たないところですが、すぐに解消できるものでもありません。これまでのフィリピン集中の経緯や分散政策を採用した場合の経営への影響、それに外交上の問題の有無も考えなければならないかもしれません。もし一国集中の解消が困難ならば、次善の策として、何らかの安全保障対策を考え出さなければなりません。

(2)については、通常の病気・怪我については一応の体制が整ってはいますが、今回のような感染症に対してはどうするかが問題です。結局、予防接種しか手段はないのでしょうか?

(3)については、様々な弱点が露呈しましたが、私が特に気になったことは、国際的側面では、自国政府と十分なコミュニケーションが取れない船主協会が世界にかなりあること、また国内的側面では、海運産業に降りかかるであろう危機の具体的内容を即座に想像し、それを総合的に把握した上で関係者と情報を共有し善後策を考え出せる人材が、私を含め見当たらなかったこと、です。

(4)については、われわれ当事者が世間一般に対し声高らかに宣伝すると「炎上」する恐れがあるので、むしろ各分野のリーダーの方々にしっかりと認識していただくことに力を注ぐことが最も賢いとも考えられますが、どうするか?

気にし出したら際限がありませんが、これまでの人類の歴史はこのようなことの繰り返しであったと思えば、若干気が楽にはなります。いずれにしても問題に気づいたら放置せず、善後策を練り実行することのできる人間、企業、産業が今後生き残って行くのだろうなあ、と強く思う今日この頃です。

以上

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