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オピニオン

2020年10月1日

野瀬常任委員

「ポストコロナの変化と課題」

日本船主協会 常任委員
NYKバルク・プロジェクト 代表取締役社長
野瀬 素之

学生時代にSF小説をよく読んだ。好きな作家は筒井康隆、星新一、それと小松左京だ。同氏にはウイルスで絶滅の危機に瀕する人類を描いた「復活の日」という作品があるのだが、「コロナの時代」の今思い出されるのは、それとは別の「見知らぬ明日」という宇宙人に侵略される人類を描いた作品だ。宇宙人の侵略に対して各国の利害・思惑が絡んでなかなか一致団結して立ち向かうことが出来ない愚かな人類を描いている。外敵にウイルスと宇宙人の違いはあるが、昨今の国際情勢と実によく似ているのである。

ウイルスとの闘いも、経済の復興も、もっと世界中の国々が協力し合って取り組むべきなのに、皆自国優先でバラバラに動いている。EUの復興基金構想が唯一の明るい話だろうか。リーマンショックの時には各国の金融担当が密に連絡をとりあい協働していたが、今回協働の動きはあまり見られない。それどころか以前からあった分断のトレンドが加速している。外航海運の基盤である平和と自由貿易が危うい。

かように国家間レベルの行く末は心配だが、もっとミクロな人と人とのレベルはポストコロナにどうなっていくのだろうか? 「今まではface to faceの接触を通して、人とのほどほどの距離感と公共意識を学び取ってきたが、タブレットやスマホでのやりとりが増えると公共精神を育む力が弱くなり、健全なデモクラシーの屋台骨が崩れていく。」という悲観的な見方がある。確かに学校教育がオンライン授業中心になるとそうなってしまいそうで心配である。一方で、「社会はより倫理的なものになる。最も大切なものは命であり、その命を守るという連帯感が強まる。人間は自分たちの都合で自然を酷使・乱用してきたが、人間も自然の一部なんだという自然観が広まる。」というポジティブな見方もある。

もし後者のようになれば、企業レベルではESG/SDGsがますます普及するだろう。一個人としては是非そうなって欲しいと思う。が、コロナ禍によるダメージからの立ち直りを図り、マーケットで厳しい競争を強いられている一企業人としては戸惑いも感じる。ESGのEとSは企業の短期的な利益とは相反するケースが多い。ESG投資という言葉をよく聞くが、「わが社は万年赤字ですが、ESGでは優等生です。」と胸を張ってもさすがに投資家はサポートしてくれないだろう。苦しい業績の中どのようにバランスをとればいいのだろうか? ESG経営を促す各種のインセンティブ的な枠組みが世界標準として導入されるといいのだが時間を要するだろう。公的補助金にも過度な期待は出来ない。手っ取り早いのは、ESGをもっと重視・実践できる経済的な余裕を持てるよう、まっとうに取り組んでいれば適正利潤が得られる業界になることである。効率改善・過当競争緩和が見込める企業間の合体・連携の取り組みがもっと起こっていいと思う。社会の公器・基本インフラとして、安定的に利益を出しつつ、よりよい社会の実現に貢献したい。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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