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オピニオン

2020年11月1日

赤峯常任委員

フィリピンにおける
新型コロナウイルス対応と
国際船員労務協会の取り組み

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
赤峯 浩一

2020年初頭より新型コロナウイルスが世界に蔓延を始めて早一年近い時間が過ぎようとしている。世界を見渡すと、各国は人の移動に対して依然として厳しい規制を設けており、船員の交代は未だに容易ではない。世界の物流の根幹を成す海運にとって、船員はまさしくキーワーカーであり、その適切な交代が妨げられ、契約上の雇用期間を超えて乗船を強いられている現状は人道的な問題であるばかりでなく、ひいては船舶の安全運航上も大きな問題である。今回、本稿執筆の機を捉え船員交代促進へ向けた世界的な動きの中で、日本商船隊に乗組む外国人船員の中で圧倒的多数を占めるフィリピン人船員の交代に関連した取組みについてご紹介したい。

ITF(国際運輸労連)は3月以降、2度の乗船期間延長を許容し、実質的には6月15日まで世界各国の規制緩和の状況を見守りつつ船員の早期交代を促した。それ以降については延長を認めず、組織一丸となって船員交代の促進に取り組んでいる。

その主な動きが、労使が一体となっての国際的な働き掛けである。ITFは、日本船主協会もメンバーであるICSや他の業界団体と共同で国連やその下部機関、或いは関係各国政府に対し、積極的なアプローチを行ってきた。IMOによる船員交代に関するプロトコルの作成と各国政府への呼び掛けはその代表的な例である。こうした取組みにも拘らず、船員交代への門戸は、世界の主要国で規制緩和が進まず、残念ながら実質的には殆ど閉ざされたままであると言っても過言ではない。

世界的な動きとは別に、各国で様々な対応がなされているが、日本商船隊に乗組む外国人船員の約7割を占めるフィリピン人船員の交代については以下の通りである。

フィリピンでは3月中旬よりマニラ首都圏がロックダウン(首都封鎖)され、地方への移動手段が空路、海路共に閉ざされたことから、下船してマニラに帰国した船員の滞留が始まった。長い場合は1ヶ月以上もマニラに留め置かれ、宿泊施設が逼迫する事態に及んだ。当時はまだPCR検査を提供可能な施設数も少なく、帰国した船員の健全性を確認する術が確保されていなかったことも大きい。国際船員労務協会(以下IMMAJ)では、長期間マニラに留め置かれている船員への支援として、MAAP(アジア・太平洋海事大学校)の練習船 Kapitan Gregorio Oca号を利用したマニラから船員居住地への移送支援を、同校の理解と協力を得て検討していたが、各自治体の検疫政策の厳しさから断念せざるを得なかった。

ロックダウン解除後も、1日の入国者数の制限が一時400人程度(10月1日現在は6500人)まで厳しくなり、航空便も大きく制限されたことから、外地で下船したとしてもマニラ行の航空便が確保できず、なかなかフィリピンに帰国できないケースが相次いだ。このため、IMMAJは、日本船主協会と共同でフィリピン政府(Department of Transport:運輸省)に働き掛け、下記事項の実現を申し入れた。

  • 日本⇒マニラ向けのチャーター便枠の確保(7月末に2便手配・運航済)
  • フィリピン・日本間往復定期航空便について、少なくとも週1便の運航確保
  • 本船がフィリピンに寄港し、直接行う船員交代の際の港費減免

その後、フィリピンのツガデ運輸大臣以下とのTV電話会議等を経て、フィリピン政府の支援により以下が実現出来た。チャーター便2便により、計281名の船員を帰国させた。また、定期航空便の確保に関しては、フィリピンの航空会社による週一便の運航が確保され、その後、入国者数制限の緩和もあり、現状、日比双方の航空会社を問わず日比間ではほぼ毎日、運航されている状況が続いている。さらに、フィリピン寄港の際の港費減免に関しては、減免の承認に先立って、客船の船員交代で混雑していたマニラ港を避けるために、同じマニラ湾内のPort of Capinpin(Bataan地区)が検疫体制を整えた上で商船専用の船員交代のために新たに指定され、8月19日から寄港可能となった。港費減免(港費の一部半額)に関しては、大統領の承認を得て9月15日より適用開始となった。

一方、8月~9月にかけて、第二波の影響を受け入国規制を強化する国が増加した。具体的には出国前48~72時間内のPCR検査の実施とその陰性証明書の携行等(日本入国の場合、72時間以内)である。

かねてより、全日本海員組合とIMMAJのフィリピン側のカウンターパートであるPJMCCの理解と協力を得て、フィリピン最大の船員労働組合(AMOSUP)にAMOSUP付属病院でのPCR検査実施を要請していたが、9月中旬にフィリピン政府の正式な認証を受けた検査施設が開設された。ここでは、検査結果が24時間以内に判明可能であり、日本商船隊に乗組むAMOSUP船員に優先枠が設けられ運用が開始された。

まだまだ、世界的に船員の交代に対して厳しい状況が続く中、日本商船隊の船員交代にとって、現状での頼みの綱は日本とフィリピンである。万一、どちらか一方で船員交代が難しくなると、その影響は計り知れない。われわれは、両国での円滑な船員交代が引続き可能となるよう、また、他の国や寄港地でのスムーズな船員交代が可能となるよう、関連官庁への積極的な働き掛けを続ける一方、関係者の理解と協力を得ながら、必要な対策をタイムリーに講じていきたい。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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