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オピニオン

2021年2月1日

田渕常任委員

海運業界と内航小型船舶における
諸問題について

日本船主協会 常任委員
田渕海運 代表取締役社長
田渕 訓生

内航海運にはカボタージュ(日本国内を輸送する船舶は必ず日本船籍とするルール)が有り、更に閣議決定により『内航海運における日本船籍船の乗組員は必ず全て日本人で運航しなければならない』というルールが有ります。また日本は四面を海に囲まれた海洋立国であるため、内航海運は国内輸送量では物流全体の8%に過ぎないが、輸送活動量(トンキロ)では全体の44%となり、更に産業素材に限ればその約80%を担っている。長距離輸送を得意としており、2018年の1航海当たりの平均輸送距離は505㎞でありトラック1運航の約10倍になっており、重厚長大物流を持つ産業を中心に、わが国にとってなくてはならない物流の輸送モードです。

2019年8月~2020年7月迄の内航総連合会集計の輸送実績を船種別で見ると貨物船(鉄鋼18%、石炭6%、石灰石25%、紙パルプ1%、雑貨13%、自動車22%、セメント15%)が全体輸送量の約65%、残りが内航タンカー組合所属の油送船(黒油23%、白油58%、ケミカル7%、高温液化6%、高温液体1%、耐腐食5%)35%に分けられる。

そのうち大型船組合所属のRORO船などの大型船、内航タンカー組合の6,500KLの白油船、黒油船、内航輸送組合の8,000トン積み、5,000トン積みセメント船、自動車専用船などの中型船は船員の雇用は比較的安定しており、運航における航海当直においても完全な二人ワッチ(当直)体制であり、若手の教育訓練がしやすい船舶です。しかしながら小型船(749GT以下の船舶)については一人ワッチ体制であり、若手を育てるのにベテランが休息を取らず指導をする仕組みを余儀なくされている。そんな小型船(内航総連合の隻数約70%)の輸送が物理的に必要不可欠だということが解ってきました。ここで昨今、海上での働き方改革が叫ばれるようになり、これらの小型船舶は労務的にかなり無理があり、早急にイノベーション改革を盛り込んだ船員対策を打つ必要があると考えられます。例えば、499GTの小型タンカー船6名(甲板4名、機関2名)の場合、機関室のイノベーション改革により機関部員2名を1名にしてその1名を甲板部に移動し、さらに進化すれば機関部員を0名にして2名を甲板部に移動する事により、物理的に航海当直を全て2名ワッチにすることを考えなければなりません。(※機関部員の技術伝承は小型船では出来なくなるので大型船と中型船に任せることにする。)さらに2040年以降の環境問題も鑑みて、船舶燃料改革も同時進行させる必要があります。そのためエンジンメーカーと燃料メーカーの方々と一緒に小型船(749GT以下)の新しい機関を開発したり、燃料供給の大変革には使用者(小型船業者の集まり)の団結力とニーズの発掘が必要であると思います。

小型船の問題点を挙げましたが、総括すると今後絶滅危惧船種にしないためには以下のような対策が考えられます。

オペレーターとオーナー共同による船員の教育訓練システムの充実
(航海当直、離着桟作業ノウハウの見える化)
荷役作業の効率化(AIなどを利用)
陸上支援体制の充実(陸上ステべ会社の援助)
環境(機関員)にやさしい舶用エンジン(特に小型船)の開発
甲板員(増員)によるワッチ体制の見直し
船舶の不稼働休暇の充実(日曜日以外の週1日程度の休暇)
⑥に絡む適正な運賃、傭船料の構築(協定運賃の再来も)
船舶のWEB環境の改善(船員の健康情報などの)

少しずつでも前進していかなければならない。でなければ、小型船の船員は環境にやさしい中型船、大型船に移行し、小型船には誰も乗らなくなる。小型船に変わる物流モードはコスト的にみても現実的にも今のところ難しい。放置すると将来的に物流危機になるので、早急に対応策が必要です。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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