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2021年6月1日

森重理事

「命の経済」と海洋

日本船主協会 理事長
森重 俊也

アルジェリアの首都アルジェ生まれ(当時仏領)のジャック・アタリ氏は、元欧州復興開発銀行総裁。著書「命の経済」で、人類の歴史を振り返り、パンデミック後の新しい世界を語る。ちなみに、カミュ「ペスト」の舞台は、地中海を望むアルジェリア第二の都市、港町オランである。治療薬とワクチン、ヘルスケアの強化、密集型都市からの脱却、新たな食文化など、市場では満たせない莫大な需要「命の経済」への転換を説く。

「命の経済」とは、「誰もが穏やかに暮らせる」ことに貢献する経済活動で、「健康、衛生、スポーツ、文化、都市インフラ、住宅、食料、農業、国土保全」、さらには、「民主主義の機能、安全、防衛、ごみ処理、リサイクル、水道、再生可能エネルギー、エコロジー、生物多様性、教育、健康、イノベーション、デジタル、物流、商品配送、公共交通、情報メディア、保険、融資」など幅広い。「命」の切り口が新鮮で、新しい輝きを持つように思われた。

これからは、民間と公共の投資を「命の経済」部門に誘導し、成長と雇用につなげることを主張する。また、自由の価値、監視国家などにも触れ、報道の自由と教育の価値を強調、戦う民主主義を主張している。

著書「海の歴史」では、ダイナミックな海の包括的歴史、現在、未来について語っている。フランスと海洋の関係を再認識させられる。海外領土を含むEEZの広さでフランスは世界第二位、インド洋、太平洋、カリブ海に多くの島嶼領土がある。レセップスはスエズ運河をつくり、同時期にジュール・ヴェルヌが「海底二万里」を描く。初めての海中カラー撮影映画「沈黙の世界」は、アクアラングを発明したフランス人クストーの作品だ。

「フランスはEEZと領海で、世界第二位の海洋国家であるが、八度あった『海洋大国』になるチャンスを逃してきた」との見方もおもしろい。一度目:百年戦争(英国に勝利、ジャンヌダルク登場)、二度目:大航海時代、三度目:宰相リシュリュー、四度目:財務長官コルベール、五度目:インド帝国、六度目:新大陸アメリカ、七度目:ナポレオン帝国、八度目:ド・ゴール将軍。

宇宙、水、生命から始まる語りは、地球史、経済、地政学、イデオロギー、文化芸術、環境など総体的に進む。「海には富と未来が凝集されている」「海は死ぬのか?海を救え」「最強の勢力は海から」「海に対して敬意を表し」「海の略奪をやめ価値を高める」とし、これからの取組みを提案している。

海洋は「命の経済」の舞台でもあり、その視点は、巨大な水球の上を活動する、海運の未来へも示唆を与えるように思う。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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