JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2021年7月

オピニオン

2021年7月1日

當舍常任委員

働く場所 家かオフィスか

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

コロナウイルスが世界中に広がってから約1年半が経過した。未知の感染症が社会に与える影響を多くの人々が目の当たりにし、会食など今まで当たり前だったことが当たり前ではなくなり、効果に疑問符がついていたことが一気に世間に広がった。そして今も足元で大きな変化が起き続けている。

個人的に大きな変化の一つと感じるのは在宅勤務の開始だ。感染拡大を防止するため国からの要請という形で昨年2月末に飯野海運でも在宅勤務が始まった。特に一度目の緊急事態宣言下は大半の社員が在宅勤務であった。海運業という業態が在宅勤務に適していたのか(もちろん在宅勤務の苦労もあったが)、事業は継続できた。在宅勤務中、“オフィスの役割とは何か”と自問するようになった。以前は1日8時間のオフィスでの業務、満員電車に揺られて週5日の出社が当たり前であった。在宅勤務は、満員電車から解放されること、働き方を柔軟にすることで多様な人材を雇用し組織を強靭化するために不可欠な要素だ。働く時間を自らが柔軟に組めること、オフィス勤務時にあったちょっとした雑談等がなくなり業務により集中しやすくなり効率化されることは大きな意義だろう。ただ、週5日全て在宅勤務という極端な選択をする必要はなく、オフィスで仕事をすることの意義、在宅勤務の意義をそれぞれ考えて働き方の仕組みを作る必要がある。

そもそも在宅勤務だけで企業は存続可能であろうか。在宅勤務という効率性の追求でどうしてもおざなりになってしまうこと、それは部署やプロジェクトの枠を越えた連携だ。在宅勤務時は同じ部署やプロジェクトに取り組んでいる人と話をしがちだ。どうしても一人で考える時間が増え考えは狭まってしまう(ただ、これは効率性につながる要素だ)。会社はもともと様々な能力を持つ人間が一堂に集い議論をすることで、重大な局面に対応し克服してきた。連携はオフィス勤務に分があるはずであり、これこそがオフィスの役割だろう。そしてオフィス勤務に利点が多いという考えを持つ人も当然いる。ただ、コロナウイルス前は出社勤務の選択肢しかなく、在宅勤務で得られる効率性などの利点を犠牲にしていたという点は認め改善せねばならない。

すでに一定数が、在宅勤務の良さを体感した以上、この流れを止めコロナ前に戻すことは不可能だ。様々な働き方が可能な環境・制度を会社が提供しなければならない。飯野海運でも遅ればせながら一部の部署でフリーアドレスを導入した。ソファ席やスタンディングのデスクなど試験的にいろいろな働く空間を作った。働く時間、働く空間が自由になればなるほど、個々人はどの様に働けばよい成果を出せるか真剣に考えるようになる。その声に耳を傾け、多様な働き方を提供できる会社こそが変化の時代に生き残れると信じている。オフィスの役割である“連携”できる場所を維持し新しい働き方を進めていく、答えがない課題だが取り組んでいかねばならない。今後オフィスがどう変容していくのか楽しみにしている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保