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オピニオン

2021年11月1日

井上副会長

フィリピン人船員の最近の動向

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
井上 登志仁

国際船員労務協会(国船協)が関係している船員は、日本商船隊の約9割を占めるFOC船に乗組む外国人船員であり、直近の本年9月1日現在で約2,220隻のFOC船に約45,000人の外国人船員が乗組んでいる。その内訳は、下記の通りである。

フィリピン人が69.2%で圧倒的に多く、次いでインド人(11.7%)が二番目、以下はミャンマー人(4.5%)、中国人(4.1%)、ベトナム人(3.8%)、その他(6.7%)となっている。

フィリピン人船員は、現状で全体の7割弱を占めているが、振り返るとリーマンショック前の好景気の時に発注した船舶が段階的に竣工し始めた2010、2011年頃から一挙に配乗数を伸ばし、2014年には77%を超え、その後77%前後で推移したが、2017年に入ってから徐々にシェアを落とし、昨年(2020年)9月には70%を初めて割り込み、今日に至っている。

フィリピン人船員が減少し始めた2017年から今日に至るまで、FOC船の総数とそれに対応する乗組員の総数は大きくは変わっていない中で(2,200隻台/45,000~46,000人)、フィリピン人船員の減少分は、主としてインド人船員、ベトナム人船員およびミャンマー人船員に取って代わられたようだ。

その理由や背景については、勿論コロナの影響もあろうが、国船協の会員会社によれば次のとおりである。インド人船員の増加は主として職員で、原油タンカーやケミカルタンカー等の危険物運搬船の増加やコンテナ船の大型化により、安全運航への信頼性からフィリピン人船員よりもインド人船員を志向する船主が増えたこと、またバルカーに関しては、コスト競争力の観点からベトナム人船員やミャンマー人船員に置き換わったケースがあるとの指摘があった。

フィリピン人船員の減少に関しては、ITFとのIBF労使交渉で国船協とともに使用者側として共闘するIMEC(欧州を中心とする主として船舶管理会社が集まった団体。世界の主要船管会社を中心に世界全体の船員数の約17%を扱う)も同様の現象に直面している。IMECの場合は、職員については数年前からインド人船員数がフィリピン人船員数を既に上回っているが、フィリピンやそのマンニング業界が抱える諸問題がフィリピン人船員の国際競争力に悪影響を及ぼしていることを指摘している。それは、急騰する社会保障料などの公的コストの負担増、船員をそそのかして傷病保険金を巻き上げる悪徳弁護士の跋扈、EMSA(European Maritime Safety Agency)からの指摘が続く海事教育機関の質的向上に対する懸念などである。このような事実も相俟って、フィリピン人船員離れが進むのではないかと指摘する。われわれにも共通の課題である。

海事教育機関の数、英語によるコミュニケーション力、海外(含 船上)での労働を厭わない国民性とそれを奨励する政府による強力なバックアップ等に加え、これほどの船員供給・育成のインフラを有した国は他にないことを考えると、フィリピンの船員供給国としての優位性が簡単に揺らぐことはないと思うが、今後、環境対策を中心に新たな技術や資格の習得・取得の必要性が与える影響も出てくるだろう。日本商船隊はフィリピン人船員への依存度が高いだけに今後もフィリピン人船員の動向、とりわけ職員の動向を引続き注視し、原因や背景を究明していく。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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