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オピニオン

2021年12月1日

友田副会長

海運の役割の認知
 –安全・環境の二本柱–

日本船主協会 副会長
友田 圭司

今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で海上輸送を含むサプライチェーンに随所で障害が生じ、その対応に追われた一年であった。これだけの全世界同時障害の発生は例をみない。関係者による改善の効果は出つつあるが、正常化には時間を要するものと目される。

商船が社会インフラとしての使命を果たす上で、船社には船腹供給を常時安定的に確保し、需要増に際しての対応能力を蓄えることがまず求められる。それには長期的に安定した投資環境整備が必要であり、政官民問わずステークホルダーあげて理解を深めていただく事がその推進力になる。その推進力の代表例は海運税制だが、最近では100年に一度の技術革新を前提とした環境保全への取り組みにも早急かつ抜本的な投資環境整備が必要となってきた。

このため日本船主協会(以下、船協)では10月末、「2050年GHGネットゼロへの挑戦」を宣言した。現状の技術のみでは実現しえない野心的な試みは、海事関連産業と政府の総力をあげた協働・支援を仰がねば為せるものではない。各種代替燃料やその供給体制整備の検討、ゼロエミッション船計画が開始され、実証船投入のスピードアップを目指している。このビジネスチャンスにわが国海事産業界が世界をリードしえるか否か。後手に回れば衰亡の途につくやもしれぬ。船協でもこの挑戦を具体的にどう試みるのか、2022年度事業計画策定に向けて、関係者間で具体化していく。

一方、こうした案件を進めるにあたり、海運の重要性が広く認知されることが前提となる。船協も地道に啓発活動を続けているが、一般国民が直接触れる機会が少なく、海運の認知度はなかなか深まらないのも現実。今回、COVID-19の影響で海上輸送にも世上の注目が集まったのは嬉しい事だが、多くの報道はサプライチェーンの障害という現象面にのみ焦点を当て、“物流を止めない使命を遂行すべく尽力する人々”に目が向けられるのは稀有であった。

防疫体制強化によってエッセンシャルワーカーである船員が長期乗船を余儀なくされたが、船上で踏ん張り続けた乗組員やそれを支援した関係者にエールが寄せられたことを知っている人がどれだけいよう。ある小学校では船協会員会社が作成した乗組員激励ビデオレターと乗組員からの返信を授業でとりあげ、海上輸送の維持とそれを支える人々の重要性について理解を深めた。授業後、生徒から乗組員に宛てられた激励は孤独に陥りそうな乗組員の心を打った模様。われわれも、エールの交換を通して“感謝の想いを伝える”ことの重要性を再認識した。

そしてこの“感謝の想いを伝える”ことは海運事業者にとっては“安全”とも深くつながる。海事関係者なら、商船の安全航行が海賊対処行動等に関わっている自衛隊・海上保安庁の隊員・職員らによっても支えられていることを知っていよう。

海賊対処行動部隊のジブチ拠点は本年、開設10周年を迎えた。この10年間の護衛対象隻数は4,000隻に及ぶ。船協ではこれまでジブチへ訪問し、感謝の意を直接伝えてきたが、この2年間中断を余儀なくされている。あらためて、多くの生活と暮らしを支える海上輸送の安全が様々な関係者に支えられて維持されてきたことへの感謝をわれわれは忘れてはならない。

海運事業者にとって“安全”は永続して取り組む1丁目1番地の最重要課題。“安全”を損なう海難事故は海上物流の途絶をもたらし、そして“環境”保全に大きな影響を与えるリスクを孕む。ゆえにESG(環境・社会・統治)の原点として安全航行強化に各社注力しているのだ。

さて、近年はこの“安全”と“環境”を両輪として事業運営にあたるステージに入ってきた。個社のみならず船協にとっても海運業界としての重要課題と認識している。

船協としてどの様なかたちでこの二本柱への対応を具体化していくか、2022年はその実践を問われる重要なスタートと身を引き締めている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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