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2022年3月1日

谷水常任委員

日中雑感「20年後」

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
谷水 一雄

現在、台湾が日本でちょっぴり人気がある。パイナップルケーキはコンビニでも見かけ、豆花は専門店も出店している。また台湾映画はファンが多く、80年代以降の名画が上映されミニシアターは混みあっている。日本統治の終焉から国民党政府へ、そして民主化ひまわり運動へ。着実な経済発展により移り変わる経済社会や人々の暮らしと世相を描くものが多い。フォルモサは昔の日本とも重なり、懐かしさと共感を引き起こす。

一方で、毎日のように話題に出るのが台湾有事である。これまで一つの中国については曖昧戦略、安全保障面はタブーであったが最近は様相が違う。背景にある米中対立はパンドラの箱を開けるのか。それともわれわれが平和ボケなのか。その舞台となる台湾だが、やや前のめり感が否めない。本当に侵攻があるのか。その時第7艦隊は再び動くのか。われわれが依存するシーレーンは?鄧小平のように後世に賢く先送りできないものだろうか。

中国のWTO加盟も昨年末で20年の大きな節目、この20年でGSC (Global Supply Chain)の要として豊かになったが、気がつくと人民解放軍が増強され、日中の経済力逆転以降、周辺海域での動きが活発になった。ちょっとやりすぎ?オー・ヘンリーの小説『20年後』では、西部で財を成したが無法者に様変わりしたボブは再会後に逮捕されたはずだが。

昨年11月の六中全会で共産党は100年の歴史をつづり、マルクス主義、毛沢東思想、鄧小平理論を経て習近平による特色ある社会主義思想を貫徹し、次の建国100周年に向けて中華民族の偉大なる復興を目指すという。旧い世代は新しい社会主義国家建設を目指す中国共産党に憧れた時代もあり、長征に従軍したアグネス・スメドレーやエドガー・スノーの著作が読まれたものである。しかしそれが今また語られるのだろうか。

経済としての資本主義、社会の意思決定としての民主主義。これに対する社会主義と一党専制国家。バイデン政権はそういった色分けを必要以上に煽っていないか。簡単な二項対立ではないし、威勢がいいだけでは墓穴を掘りかねない。またその民主主義も求心力を問われつつある。

一方中国は社会の進化として改革開放を経て共同富裕を目指し西側を超えていこうとしている。最近は資本主義を巡る議論も多いが、時と共に批判的に検証すればいい。ある著作は中国も政治的と前置きはつくが資本主義の一つだと述べている。体制に完璧はなく歴史と社会の実情に合わせ色々であり、お互いに尊重しなければならない。デカップリングでなくもう少し中庸を模索できないものか。但し他国への迷惑行為、度を超えた行動やルール違反は責められるべきで、世界はお互いがお互いを必要とする相互依存が前提であれば、一定のマナーが大国には求められる。

文明が衝突する現実はあまりに複雑で簡単ではない。われわれは不測の事態に備えておく必要があるのか。海運は造船、修繕、舶用産業、船員と中国なしでは語れない。また台湾にもお世話になっている。

話は戻るが、台湾の知人によれば「自分は昔からここに住む台湾人。これからもアイデンティティは台湾人」だと。中国の知人によれば「モンゴルは手放したが、新疆チベットそして台湾は譲れない」と。

次の「20年後」はどうなっているのか。習近平は引き続き健在?まずは北京五輪の成功と盛会を心から願いたい。そして日中は隣国という特別な関係であることを忘れないようにし、何より重要なのはわが国が一目置かれるよう、資本主義や民主主義に磨きをかけこの長い停滞から抜け出し、経済力中心に国力を向上させ発言力を高めることであろう。それが本当の意味で抑止力につながるのではないか。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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