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オピニオン

2022年4月1日

明珍副会長

“目指すべき未来”の実現のために
海運が果たす役割

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
明珍 幸一

今は不連続な変化の時代と言われていますが、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大以降の出来事を振り返ると、一時的な経済活動の停滞に始まり、テレワークの普及など人々の行動が大きく変容するとともに、コト消費からモノ消費への変化による2020年後半からの需要のV字回復、つづいてコロナによる労働力不足を主因としたサプライチェーンへの影響、更には足元では欧州での紛争など、情勢の変化のスピードは早まるばかりで、これらはいずれも過去の経験を超えた事象の連続だったように思います。一方で、低炭素化・脱炭素化など、環境負荷低減の必要性は時計の針が急に進んだように早回りし、社会により強く意識されることになりました。

船会社が社会の様々な要請、お客様の要望に応えていくためには、船のバリエーションは将来、もっと増えていく可能性があると思っています。GHG 削減のために、研究開発や実証試験が盛んに進められているLNG、アンモニア、水素などの代替燃料船に加え、洋上風力事業支援船など再生可能エネルギー事業の支援による社会の脱炭素化の推進など、様々な取り組みが始まっています。またLNGのバリューチェーンにおいては、LNG 輸送に加え、オフショア支援船、LNG 小口輸送やLNG燃料焚き船導入に伴うLNG燃料供給船事業など事業のすそ野が広がっています。

最近は将来のありたい姿に向って共同研究などを行う、いわゆるバックキャスティングによる目標設定とこれに向けての取組みが多くなっています。2030 年や2050 年のありたい姿を思い浮かべて今、何をすべきかを考える。そのためにはお客様、ステークホルダーの声、国際社会からの要請や社会情勢の変化を敏感にとらえる必要があります。また船の稼働期間が約20 年間である事を考えると、今からどんな船を実現するかという方向性と時間軸は待ったなしのタイミングで検討していく必要があり、そのためには外部パートナーとの連携は不可欠です。

川崎汽船の取り組みで申し上げると、ゼロエミッションのアンモニア燃料については、昨年6 月に20 を超える複数の企業等と共に立ち上げたアンモニアに関する協議会を通じて、舶用燃料利用の検討を進めているほか、11月には5社で取り組むアンモニア燃料船開発の社会実装プロジェクトが政府のグリーンイノベーション(GI)基金事業に選定され、また共同開発したアンモニア燃料自動車専用船の設計が、日本海事協会(NK)の基本承認(AIP)を取得しました。水素では、豪州の褐炭から製造されるCO2フリー水素のサプライチェーン構築を目指す『技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(Hystra)』に参画しています。

事業環境が目まぐるしく変わる中、変化に柔軟に対応できるレジリエンスが船会社に求められています。船を通じて、持続可能な社会の実現、世界の人々が幸せに、豊かな生活できる事に貢献する。そのような“目指すべき未来”を実現するために、船会社として低・脱炭素化を推進し、最大限の努力をしていきたいと考えています。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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