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2022年7月1日

當舍常任委員

グローバル化の行方

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

冷戦が終結して約30年が経った。この間、国際的な移動手段や通信の整備が急速に進み、国境を越えた人、物、金融、情報の交流が活発化、更に貿易自由化の加速や、中国やアジアの急速な経済成長に加え、ロシア・東欧諸国の自由経済市場への参加などにより、地球規模で市場経済化が進んだ。海運業界もこのグローバル化の進展とともに発展してきた。

しかし、近年、グローバル化のマイナス面が顕在化している。2020年に出現した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界中に広がり、自由に往来していた人の流れが止まり、ロックダウンなどにより物の流れも急速に縮小した。マスクの品不足が記憶に新しいが、中国で製造した日本メーカーのマスクが輸出できなくなり、有事における必需品を輸入に頼ることのリスクが浮き彫りになった。そのため、海外に生産拠点を移していた企業は国内へ回帰する動きも見られた。ワクチン接種の進展などにより、ようやく欧米を中心にウィズコロナで日常を取り戻しつつある一方、中国ではゼロコロナ政策堅持の結果、2か月にも及んだ上海でのロックダウンにより、景気減速が懸念されている。コロナ以外でも米中の貿易摩擦の長期化がグローバルサプライチェーンに影を落としている。

今年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻は、大方の予想に反する衝撃的な出来事であった。資源大国ロシアに対する制裁が行われ、ロシアを世界経済から切り離す動きが加速した。これにより過去30年にわたり進展してきたグローバル化は困難に直面しており、「グローバル化は終わりを迎えた」と指摘する専門家もいる。リスク回避のため、企業の海外からの撤退や海外事業の縮小といった国内回帰の流れは当面続くと思われる。

さて、海運業界のグローバル化もその流れとなるのだろうか?私はむしろ逆で、海運業界にとっては急激に変化する現在の世界はチャンスであると思っている。ロシア制裁により物流の変化も起こるだろう。先を読み、失敗を恐れず先手を打っていけば商機にも繋がる。気候変動への対策も待ったなしの対応が求められているが、このロシア問題により一時的に困難に直面している。感染症や地政学的リスクなど将来を見通しにくい状況にはあるが、原則として世界のGDPが伸び、世界の人口が増えていくならば、海上輸送も増加していく。海運業界のグローバル化は後退することはないだろう。

飯野海運は昨年の夏以降、ロンドンやドバイ、ヒューストン事務所を拡充し、今後もグローバル化を進めて行く予定だ。飯野海運グループの役職員には、「変革をためらうな!」と伝えている。変化を厭わず挑戦していくことが、この困難で不透明な世界で生き残っていくのに重要だと信じている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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