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オピニオン

2022年9月1日

栗林副会長

持続可能性のある
内航海運を求めて

日本船主協会 副会長
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏𠮷

20年以上続いた内航海運暫定措置事業が昨年8月で終了し、船舶建造に係わる船腹の需給調整事業が一段落した内航海運で、本年4月より今度は船員さんの労働環境の改善と健康確保を大きな目標とする、いわゆる船員の働き方改革の実現を目指して改正された船員法・船員職業安定法・内航海運業法が施行された。これに伴い日本内航海運組合総連合会(以下、内航総連)も、船腹調整事業を行う組織から、日本の国内海上物流を支える業界団体へと生まれ変わり、船員の働き方改革への対応も中心的なテーマとして組織の中で取り扱うこととなった。

これは船腹量で需給を調整する時代から、船腹以上に貴重価値が生じている船員さんの確保育成と職場環境の改善を目指すことが、今後、内航海運が持続的に発展していくには重要になったという、時代の転換点を表す象徴的な出来事だと考えられる。

内航総連の対応を順次説明する。まず今回の船員法改正の最大のポイントは、従来船員の労働時間の管理は船内で船長が行うというシステムを見直し、陸上の船主側が労務管理責任者を選任し、労務管理に責任を持つようになったという点である。内航総連としては、新しい労務管理責任者制度を広く普及するため、国土交通省認定の講習を現在日本各地で実施している。

また、船員の労働時間について従来は船主サイドの問題で、オペレーターや荷主は無関係であったが、本来の趣旨に則って働き方改革を進めるためには、オペレーターや荷主の協力が必要との観点から内航海運業法が改正され、オペレーター・荷主それぞれに船員の労働時間の配慮義務が課せられた。内航総連としては代表的な貨物を中心に、船主とオペレーター、オペレーターと荷主の対話が進み、従来の取引慣行の改善が進むよう、安定・効率輸送推進委員会を設け、サポートしていくこととなった。

今回の船員さんの働き方改革は、トラックドライバーの時間外労働が大幅に規制されていく中で、「ホワイト物流」推進運動として現在展開中のトラック業界の動きをにらみつつ進んでいくことになる。トラックの場合は労働基準法の世界で、トラックドライバーに特例で認められている時間外労働時間の上限規制の猶予が猶予期間終了後の2024年4月から年間960時間に規制されるという船員法の世界とはまた違った対応を迫られているが、荷主の理解や協力が必要なことは共通しており、オペレーターの関与と併せて荷主の皆様への啓蒙活動が重要となる。また業界としては労働時間の管理を含め、デジタル化を進めて透明性と効率性を高めていくことが要求されていく。

内航海運暫定措置事業を平成10年に開始してからの24年間、日本経済はバブル崩壊後の不況から脱することなく、デフレとゼロ金利の世界から抜け出せずにいる。グローバル化の名の下に生産拠点を海外に移すだけでなく、日本式経営の見直しの号令により正社員を減らし非正規社員に置き換える等、人件費コストを無理に抑える経営を続けた結果、急激な円安もあり日本人の賃金水準は諸外国に比べ見劣りのするものになってしまった。

働き方改革はもちろんであるが、新しい資本主義に掲げられている人への投資と配分が一段と重要になって来ている。無理は長くは続かないのである。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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