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オピニオン

2022年11月1日

井上副会長

「20歳を迎えるIBF – 設立までの
激動の時を振り返って」

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
井上 登志仁

FOC船に乗組む外国人船員の労働条件について国際労使が交渉を行う場であるInternational Bargaining Forum(IBF)が2003年に設立されてから来年で20周年を迎える。その国際労使とは、労働者側が国際運輸労連(ITF)、使用者側はJoint Negotiating Group(JNG。国際船員労務協会(国船協)、欧州を中心とする船員配乗・船舶管理会社の団体であるIMEC、韓国船協、台湾のEvergreen社で構成する交渉団体)であり、JNGは扱い船員ベースで世界の船員数の20%強を占めると推定されることから、ITFの交渉相手の中では圧倒的に最大規模と思われる。IBF設立以前は、外国人船員の賃金の値上げについてはITFが一方的に決定し、船主にそれを押し付けていたが、批判も受けてそのやり方に限界を感じたITFが自ら働き掛けて設立されたのがIBFである。これによって外国人船員の労働条件は国際労使の直接交渉によって決定されることになった。設立当初はその存続性を疑問視する声もあったが、特に大きな問題もなく、20周年を迎えようとしている。IBF設立の意義は、ITFとの直接交渉が可能になったことは勿論、何かあった時に話合いができる双方向の関係が構築されたことだと思う。更には、その軸足を欧州に置くITFがアジアにも目を向けだしたことにもあると思う。

IBFに参加している国船協は、その会員会社(9月1日時点で84社)は配乗管理会社と船舶管理会社が約7割を占める。本来であれば船員の労働条件は船主が直接交渉すべきであり、その意味では国船協ではなく、船協がIBFに参加すべきとの意見もあった。実は、IBFの設立に向けてITFは船協の参画を望んでいたらしく、船協にアプローチがあったのは事実である。IBF不参加の結論に達するまでの船協の対応を簡単に振り返ってみる。根本・転法輪ドクトリンによって外国籍船に乗組む外国人船員の労務問題には「不関与」の姿勢を貫いてきた船協だが、1990年代末にITFが発表した一方的且つ大幅な賃上げ計画に対し、ITFの傘下にない中国人船員に職域を奪われることを懸念したフィリピンが政官労使一体となって賃上げ凍結運動を大々的に展開、日本もこれに共鳴し、船協は「不関与」から「緩やかな関与」に方針を変更してこれを支持した。この凍結運動がIBF設立に繋がっていくのだが、「緩やかな関与」の下に船協は「国際船員問題タスクフォース」を立ち上げて外国人船員の労務問題への取組み方を検討し、最終的に船協はIBFには参画せず、所謂「三原則」(①船員の賃金はその船員の居住国の物価に見合うものであること。②労働協約は雇用者と船員の出身国組合の間で交渉されるものであること。③ITFのFOCキャンペーンとその他関連政策を容認しないこと。)に基づいてIBFの外側でITFと対峙していくことを決定した。直接交渉への関与を希望する船協会員会社は、IBFへの参画を決めた国船協に個社の資格で加入することになった。

紙幅が許せば、まだまだ記すべきことがある。それほど当時は国際船員労使関係の激動期で、上記のタスクフォースの活動報告書や国船協創立後30年(1984~2014)の歴史をまとめた小冊子がそれを物語っている。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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